邂逅

アキラ・アガルカール・山田。声を掛ける場合アキラくんだろうか。いや、初対面なのにいきなりアキラくんは馴れ馴れしい、ここは無難に山田くんだな。

何故そんな思考を働かせたのかと言えば、今偶然目の前に山田くんがいるからである。制服にターバンという組み合わせ、足元のアヒルは間違いなく山田くんだ。普段は散歩なんてしないんだけど、今日はたまたま。何やら「江ノ島丼!江ノ島丼!」と叫ぶ声も聞こえる。


「山田くん」


名前を呼んでみると山田くんは少し不思議そうな顔で振り返った。アヒルも、一緒だ。


「あれ、山田くん、じゃないっけ?」
「…合ってる」
「だよね、よかった。不思議そうにしてるから間違えたかと思って」
「いや、呼ばれて驚いただけで、特には」
「そっ、そっか」


テンション低い。
何だか私がすごく山田くんと仲良くなりたいみたいだし。別にそういうわけじゃなくて、ああもう、話し掛けるんじゃなかったな。


「えーっと…その子の散歩?」
「散歩…まあ」
「あれ、真田くんとハルくんだね」
「ああ」
「江ノ島丼って叫んでたのは二人だったんだ」
「そうだね」
「――…その子の名前は」
「タピオカ」
「タピオカ。そっか、タピオカ…」


どうしよう、会話が続かない。どうして声掛けちゃったんだろう、仲良くないのに別に。話したこともないよ。


「あ、あの」
「ん?」
「…私、みょうじなまえっていうんだ。よろしくね、山田くん」
「……はあ」


何で自己紹介したんだろう、私。何だか、江ノ島丼と叫ぶ声がやたらと響いている気がする。



20120507

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