微妙な距離感、反発ではなく照れからの行動だ。それでも荷物を持つと言えば手渡してくれるし遠く離れるわけでもない。
想像以上の効果だったらしい、あの口づけは。
「……」
「ああ、どれがいい?」
「えっ、ほ…本当に買ってくれるつもりだったの?」
「勿論。シニョリーナ、君も遠慮しつつ期待していたかと思うんだが?」
「………まあ」
「なら、気にする必要はないさ」
なまえは今日は髪を結わえていない。解いた姿は度々目にしてきたが、普段とは異なる状況がまた違った空気を生み出す。
「でもね、何と言うかこう。贈ってもらうのが当たり前、と思っているみたいであんまり」
「おれは進んでやってるんだ、問題ないだろう?」
「……シーザーが言うなら…」
「そういうことにしておいてくれ」
「うーん…」
あまり納得は出来ていないらしい。さて、どうすれば心から喜んでくれるのか。事実を作ってしまえばどの道笑顔を見せてくれるに違いないが、少し経てば気にしはじめそうなんだよな。そういうところも悪くはないにせよ、こちらとしては素直に受け取ってもらえるのが一番なんだが。
「よし」
「何?」
「日頃のお礼、ということなら?食事に洗濯、世話になってるしな」
「スージーQもよ?」
「当然、彼女にも買っていく。だからなまえも当然のように受け取ってくれるかい?」
「………」
「どう?」
「…それなら。うん、ありがとう、シーザー」
「おれの方こそ。受けてくれて、ありがとう」
躊躇いがなくなったらしいなまえはおれのように「よしっ」と呟くとさっきよりもずっと、熱心に品物を眺める。これまでなまえの髪を纏めていたのは実にシンプルなものだったから飾りのついたものもいいんじゃないか。まあ彼女の最上を了承するのがおれの役目、その暁にはまた、結わえさせてもらおうか。
「――…これにする」
「へえ、随分とまたシンプルなものを。こういうデザインが好きなのかい?」
「もう少し派手なものでもいいかと思ったんだけど、オレンジはこれしかないから」
「色に拘りがあったのか。なら、」
「…シーザー、好きでしょう?オレンジ。だから」
「………」
「なっ…何か言って、恥ずかしい、し」
「…ママミーヤ。嬉しいよ、ありがとうなまえ」
今すぐ感謝を行動で示したいところだが、そうすると冗談抜きで避けられてしまいそうだな。
fin.
20140117