otto

さりげなく触れてみればいい。ジョセフさんの提案とは至極単純なものだった。

けれど私が触れたくらいで動揺するとはやっぱり思えないし、何より恥ずかしい。勝算はないに等しいだろう。「そんな困った顔しても逃がさないわよン?聞いちまったからにはやってもらう」と言ったジョセフさんの笑顔は実に意地悪く、少し泣きたくなってしまった。


「なまえ、髪が解けそうだ」
「っ、…あ、ああ、シーザー」
「おれに直させてもらえないかな?」
「それは構わないけど」
「感謝するよ」


そういえば、約束というには実に曖昧だったけど、買い出しに付き合ってくれるという話のはず。そのときに新しい紐を贈ろうだとかなんとか、ああ、結局期待しているわけだ。


「………」
「…どうかしたかい?」
「ん?…どうもしないわ」
「そうかな。纏う空気が普段と違う」
「…空気なんて、意識したことない」
「おれは常に意識しているから」
「…………シーザー!」


どちらかと言えば自分に気合いを入れるため。強く名前を呼んで、相手の反応を待たずに振り返る。シーザーの手からこぼれ落ちた髪が広がった。一呼吸、間が出来ると不思議そうに瞬いていたシーザーが不意に表情を、変える。


「なまえ、目が潤んでいるように見えるが、具合でも悪いのか?」
「――っ、そんなことない。それは大丈夫、だけど」
「だけど?」


ああ駄目だ。真っ直ぐな眼差しに、苦しさを感じて仕方がない。



20140104

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