Case3

考えどころか何処を見ているかすらわからぬ男と顔を合わせて数十分は過ぎただろうか。変化を目視出来る部分は口元しかなく、今のように無表情を決め込まれては居心地も悪い。それに何となしに腕を掻けば、男は「ふむ」と実に小さく呟いた。


「レリウスたいさあ、な〜んですかねェ?」
「いや。……ハザマ」
「何だよ」
「マスターユニットが…邪魔か?」
「はあ?何聞いてんだテメェ?そのためにノエル=ヴァーミリオンを生かして世界を進めんだろ。そうでもしなきゃはいまた蒸発、年も越せずにあの失敗作とご対面じゃねぇか」
「その割りに……」


ノエル=ヴァーミリオンの存在は相変わらず安定していない。結局今回は失敗作とのご対面が確定、串刺しもそろそろ面白味に欠けるというものだ。ノエルが生きている世界でも見慣れた光景が繰り返されるのは同じ、歓喜の声ならば是非ともこの口から上げたいものである。


「何?嬉しそうにでも見えるって?」
「……第零師団の…ヤヨイ家……ではなく」
「…ナマエ=ミョウジ?」
「そう…それだ」


今思い出したとでも言うような口ぶり、潜んでいるのは好奇心だろうか。「何度も会ってりゃ覚えんだろ」と適当に返したところで言葉はない。これならば自分も無視を決め込むべきだった。思ったところで、一度音にした限り訂正は出来ないのだが。


「そのフロイラインがなんだよ」
「私には、関係がない。主にハザマ……貴様だろう」
「はァ?」
「文句を言いながら…満更でも、なさそうだ」
「お人形ばっか弄っててついにいかれたか、変態野郎」


舌を打ってから吐き捨てると緩やかに弧を描く唇。ああしくじった。このところそう思う機会が増えたと感じるのは、気のせいだろうか。


「あれは…意味がない」
「うっせぇなァ…ノエル=ヴァーミリオンが生きてたとしてもその世界にナマエはいない、触媒にもならないってのは充分理解してますよ」
「ならば……いいが」
「何懸念してるかは知らねぇが、俺はこの世界を続けるつもりは一切ない。どの道12月31日にならなけりゃリセットは利かねぇし、今どうこう考えたって無駄だろ」
「まだ、時間はあるな。……実に退屈だ」
「マコト=ナナヤ少尉でも観察してりゃいいんじゃないですかね、レリウス大佐」


言いながら時計を見ればそろそろ時間、ラグナ=ザ=ブラッドエッジの情報は探らずとも既に入っている。あとは少しずつあの馬鹿な青年に流し込むだけだ。


「キサラギ少佐に会ってきます」
「……そうか」
「その目、止めてくれません?」
「ほう…?わかるのか、ハザマ」
「腹の立つ表情だってことくらいはね」


再び弧を描いたそれに起こる苛立ちは、まさに男の懸念する感情そのものではなかろうか。



20120607

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