距離感

「貴様、兄さんの何なんだ」


何なんだ、と言われましても。凄みのある表情に顔が引き攣り、思わずテルミさんを見る。面倒臭いと思っているに違いないけど、「店番代わりますね」と笑顔で引き受けてくれた。取り敢えずは。テルミさんはどうにもジン君の扱いを心得ているらしい。


「…友達、ですけど」
「それ以外の感情は一切ないんだな?」
「…はあ」
「はいか、いいえだ」
「な、ない。はい、です」
「………」


思わずまた、テルミさんを見る。店番と言ってもジン君しかいないこの状況ではやることはなく、テルミさんは私の観察をすることにしたらしい。凍てつくような鋭い表情、何と恐ろしいことか。口から出るのは敬語ばかりだ。


「…なら、何で兄さんは昨日」
「昨日?」
「電話に出なくて、メールをしても返事がなかった。バイトかとも思ったが、昨日は夜からのはずで――…何の音沙汰もないのは不自然だ」
「……そう、なんですか」


不自然かそれ。
ラグナだって、常々ジン君のために動いているわけじゃないだろうに。今日は何した明日は何する、それを伝えるのは義務だとでも言うのか彼は。


「そこで、兄さんの家に行ってみた」
「え?」
「どれだけ待っても、チャイムを押しても反応がない――…貴様だろう、昨日兄さんといたのは」
「……いや、まあその、」


いたけど、この追求は何と言うか。確かに兄弟で、ジン君はラグナのことを随分と好きみたいだから自然、いや、ストーカーじゃないか軽い。身内だからいいって問題でもない気がするんだけど。普通なのかな、この兄弟には。


「ご心配のところ申し訳ないのですが」
「っ、」
「ナマエさんは私と懇意なので、目くじら立てなくても大丈夫ですよ」
「は?」
「はあっ!?」
「ええっ、そんなに引かれると傷付いちゃいますよ、私」
「嘘ばっか!傷付いたところなんて見たことないんですけど!?」
「私、大人なので。当たり散らしたりはしないんです」
「……何が言いたい」
「何も?」


私の肩に手を置いてにっこりと微笑む現在、ハザマさん。今のジン君は私の背後にいるテルミさんを睨んでいると理解していても恐ろしい。嘘八百にときめきなんてものは感じないけど、こう、庇ってくれるなら前に出るとかさ。あ、煽りなのかな相変わらず。


「………」
「そんな怖い顔ばかりしていると、ツバキちゃんが泣いてしまいますよ?」
「…ツバキちゃん?」
「え、それも駄目なんですか?んじゃお嬢様らしくツバキ様?」
「貴様っ」
「まあまあ。取り敢えず、ラグナ=ザ=ブラッドエッジとこの子のことは気になさらず。私達仲良しなので、ね?」
「…て、ハザマさんよりラグナの方が親しいです」
「やはり貴様兄さんをっ――…!」
「いっ、いやいや!そもそもこの人となんもないから!!ラグナは友達だけど!!」


どう答えても不正解かよ!



20131124

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