冷蔵庫とお風呂

ラグナはまだ不機嫌顔である。原因のテルミさんは「せーいぜい楽しくやれよォ、ラグナ君」などと腹の立つ表情付きで残し仕事に向かった。

お茶を飲むでもなく、お菓子をつまむでもなく。当然手を温めているわけでもないだろう。包むように湯呑みに手を当てるラグナは、拗ねた子供みたいだ。


「…確かに、言った通り二人ではなかったな」
「でしょ?」
「お面野郎もいたし、ウサギんとこのおっさんも」
「あ、そうだ。ラグナってハクメンさん苦手なの?助けてくれたってジン君は言ってたけど」
「何されたってわけでもないが、怖いんだよな、本能的に。どうしても構えちまうっつーか」
「ふうん」


ウサギんとこのおっさんはやっぱりヴァルケンハインさんか。「それより」と、恥ずかしかったのか一度咳払いをしてからラグナは続ける。それより、テルミと。ここまで恨まれるなんてテルミさんの子供に対する仕打ちとはどんなものだったのやら。譲歩するとか手加減するとか嫌いそうだもんなあ、あの人。


「何もされてないんだよな、あの野郎には」
「心配しすぎ、だから煽られるんだよ?」
「信用する気がないんだ」
「……まあ、うん。お風呂にしても時間決めてるからばったりなんて有り得ないし、テルミさんは私に興味ないよ?」
「自分以外に興味ないだろ、あれは」
「…だろうねえ。二人にはよく絡んでるけど」


ラグナは面倒見がいい。いいというか、赤の他人には冷たいどころ怖いんだけど、少しでも情を抱いた相手を切り離すことが出来ないんだよね。

私は有り難いことに後者になっているらしく、大袈裟に言えば敵であるテルミさんのことで色々と考えてくれていると。ジン君にもこんな調子なのかな。だからブラコンになるんだよ、ちょっと異常な。


「そういやその菓子箱」
「手作りじゃなくて残念って?」
「あのなっ、…ああもうっ!なんか名前書いてあんなと思ったんだよ!」
「ああ。食べられたくなかったら書いとけって言われてさ」
「……お面野郎も書いてんのか?あの執事も?」
「ハクメンさんもヴァルケンハインさんも、自分の部屋にあるみたいで」
「冷蔵庫が?」
「多分?ちっさいの――…わかんないけど」
「…へえ……」


ラグナの言わんとすることはわかる。名前を書いて置いておくイメージも、自分の部屋に冷蔵庫を置いているイメージもないもん。想像すると思わず笑いそうになるくらいには違和感だ。


「ふふ、確かにおかしい」
「俺は別におかしいとは…」
「そうだ、ラグナも何か名前書いて置いてく?」
「は?」
「次に来る機会があったらさ。ね?」
「……やらねーよ」
「えー?」
「何がえーだ」


ああなんか、こういうのって久しぶりかも。



20131111

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