賛成と反対

出会した夜中にラグナからメールが来て、その指定通り授業を終えた私は大学最寄りのカフェにいる。

目の前にはラグナと店で見かける金髪の高校生――…ラグナの弟らしいジン君。ラグナは相変わらず怒ったような表情で、ジン君はまるで興味がないというようにカップに口を付けている。


「…こんにちは。よく来てくれてるよね、学校のお友達と」
「ああ」
「………ラグナ、メールなんだけど」


ジン君の眉がぴくりと動いた。睨まれてるな、これは。よく表情の変わる女の子と比較したら起伏の少ない子だとは思っていたけど、今は何と言うか、敵でも見るような。そんなに好きかお兄さんのこと。というか、テルミさんの話をするのにどうして弟君が必要なんだろう。


「兄さん、その女は?」
「あ?メール見てないのか?こいつがテルミと住んでるから話し合うって送ったろ」
「知らない」
「…最後まで読んでないのかよ」
「ラグナってテルミさんのこと知ってるの?」
「知ってるも何も――テルミとは会ったことがあんだよ、昔」
「……へえ」


私は声を出さないほうがいいんだろうか。こう、恨まれているような気がしてならないんだよね。

同じ短い返答でもトーンが違うというか、ラグナと親しくしたら命が縮みそうというか。あの女の子といるときは、そう表情は変わらなくても穏やかな雰囲気だったのになあ。


「教会で世話になってた時期があるんだが、その時シスターの知り合いってことで来やがった」
「テルミさん?」
「他にもお面野郎とかウサギんとこのおっさんとか…まあ、遊んでくれたんだ。ジンは専らお面野郎と打ち合いして、サヤはサヤで女二人とままごとだったんだけどな」
「……それで?」
「あ、ああ。で、だ。俺は逆毛野郎とこう、ヒーローごっこやっててだな…あの野郎、ガキ相手でも容赦なく攻撃しやがって…!」
「………。テルミさんらしいね、すごく」
「あいつは他人を煽って泣かせて喜ぶ屑だ。だから俺としてはお前が一緒に住むってのは反対で、だな――…聞いてんのか、ジン」
「興味ないもん」
「なっ、あのなあ!お前だってあいつには碌な思い出、」
「ユウキ=テルミでしょ?名前は覚えてるけど、僕は大して思い出なんかないから」


ラグナのテルミさんに対する評価に間違いはないと思うし、私だってあの人を真人間とは思っていない。だけど、うん。かなり私怨が入ってないかな、ラグナ。ジン君はどうでもよさそうだよ。

それにヒーローごっこのあれやそれで抗議をされたところで、今の生活にはあんまり影響はないような。


「お前なら上手く説得してくれると、ああくそっ!確か師匠に頼まれたんだったよな?」
「師匠?獣兵衛さんになら…」
「その師匠が獣兵衛なの!!何だって師匠もお前にテルミを――…」


一瞬過ぎった弟子ってラグナだったのか。確かにこの調子じゃ任せられないよね、仕方ない。


「でも、テルミさんと二人ってわけじゃないし。ハクメンさんとヴァルケンハインさんもいるよ」
「ハクメンがいるならいいんじゃないの?」
「ジン!お前は楽観しすぎだ!」
「だってハクメンだよ?稽古受けてても何時もと変わらないし、兄さんが泣き喚いていた時に助けてくれたのもハクメンじゃない。だから、僕は賛成。本人が引き受けた上にアルバイトで生活してるなら、今更部屋を探せっていう方が酷でしょ」
「ま、まあ、そうなんだが……」


ハクメンさんの稽古、ジン君受けてるんだ。足元に置いてあるのは竹刀だろうか。成る程、剣道の師範なのね。


「――…ならいっそ、俺と一緒に」
「それは反対。駄目に決まってるじゃない」
「き、気持ちだけ。ありがとね、ラグナ」


そこでどうして私を睨む。断るってば、ちゃんと。



20131103

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