帰る時間

「いやあ、つっかれましたねェ」


凝ったと主張するように肩を回すテルミさんに返す言葉は特になく。

当たり前のように私に店番を押し付けたテルミさんはすぐに奥に引っ込んだんだから、疲れるのは私の方だろう。まあそんなに人は来ないから、私も疲れたかといえば微妙だけど。


「何かしてたんですか?」
「あ?嫌味かテメェ。ちゃあんと仕事してましたよ。あれならガキ共の相手してる方がマシだわ」


切り替え早いな、本当に。というかテルミさんの言うガキ共ってあの学生かな。別に話し掛けて来るでもなし、あ、でもあの亜人の子はフレンドリーか。他の子達は用があればって感じだから特にすることも。ああ、だからいいのかな。


「ミョウジ、次からテメェが引っ込め」
「え?まあ別に…そんなに嫌なんですか?」
「延々とあの変態に見られながら作業とかやってられっかよ。少しでも順番違や文句だぜ?」
「変態……って、レリウスさん?」
「他に誰がいるよ」
「変態…変態?よくわかんないですけど」
「流石見る目ねぇな」


第一、レリウスさんと話したことないし。挨拶するくらいだよ。あ、そういえば眼鏡を掛けた男の子が暫く見てたっけ。何の店か気になったのか、見た目は本を読みそうな感じだったけど、置いてあるのは大半が小難しい専門書だしあの子には縁がなさそうだよね。まあ、希代の天才児とかなら話は別だけど。


「テルミさん、今日ですね。レリウスさんが連れてるあのー、機械みたいな。あれと似た物と一緒の男の子がいまして。知り合いですかね?」
「あー、ありゃ」
「…ナマエじゃねぇか」


少し圧のある低めの声。
よくよく馴染んだその声に足を止めると、一瞬不思議そうに目を丸くしたテルミさんの唇が吊り上がる。

大学の知り合いでもあって、同じようにバイトをしている人。丁度、帰りなんだろうか。


「ラグナ」
「お前のバイトも遅いんだな。暗いし気をつけて――…つっても、その隣の奴が送ってくれてんのか」
「うん。バイト先の先輩で…えっとね、てる」
「よォ。ひっさしぶりだなァ、ラグナ君?」
「あれ?知り合い――」
「は?…っ、まさかテルミ!?テメェ、何でナマエといやがる!!」
「何で?何でだァ?さっきナマエちゃんがご丁寧に説明してたじゃねェの!俺様バイト先の先輩なの、せ・ん・ぱ・い!あ、先輩ってわかる?ナマエちゃんより先に入ってる、」
「知ってるっつの!馬鹿にしてんじゃねぇ!!」
「馬鹿にしてないない。事実馬鹿なんじゃーんラグナ君って!」
「んだとこのっ…!」
「え、あ、ええっ…?」


私が口を挟む隙はなく、心底苛立っているらしいラグナと心底面白がっているらしいテルミさんの応酬は続く。知り合い、顔見知りと言った方がいいのか。一体どんな繋がりなんだろう。


「テメェなんかに任せてられるか!俺が連れて帰る、家は」
「ありがたいんだけどねラグナ、私」
「お言葉だけ受け取っとくぜェ、ラグナくぅん?でーも!俺とナマエちゃん、一緒に住んでるから問題ないんだわァ!」
「一緒!?どういうことだよナマエ!!」
「ど、どうって…そのまま、そう…なんだよね」


怖いってラグナ、何でそんなに怒ってるの。



20131102

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