起きる時間

「え?」
「押し付けるようで不本意だが、私も稽古がある」
「ヴァルケンハインさんもレイチェル様のところ、ですもんね」
「同じ古書店で働くのだと聞いた。奴が店に迷惑を掛けぬよう、連れて行ってやって欲しい」
「…………そう、ですね。準備の時間も考えたらそろそろ起きないと、確かに不味いかも。私はテルミさんがいないと行けないし」
「任せて、支障はないか?」
「はい。ハクメンさんは稽古、頑張ってください」
「――…ああ」



そんな会話を繰り広げたのが数分前。ハクメンさんを見送ると、私はくるりと向き直って思案する。

テルミさんは起きるのが遅い。ヴァルケンハインさんとハクメンさんが早すぎるだけかもしれないけど、どちらかといえば朝に弱い私よりも遅いから、遅いんだろう。目覚めのテンションはどんな感じなのか。私は生きて、いられるのだろうか。


「…レリウスさん困るしね、起こさないと」


仮面だけが原因とは思えぬ無表情のレリウスさん。ハザマと名乗って働く意味はよくわからないけど、普段のテルミさんでは店に不似合いなことくらいは容易に想像出来る。レリウスさんの趣味なのか、店内はシックでこれまたテルミさんに合わないし。


「テルミさーん、仕事ですよー」


どうせ簡単には起きないから勝手に入ってもいい。そんな風に言われて渡された部屋の鍵。

大きめの声を出しても足音を大袈裟に立てても目覚める気配はなく、だからと寝息が聞こえるわけでもなくてひやりとする。死んでるんじゃないか、音を拾えるくらい近づくと、ちゃんと息をしていて安堵した。


「……生きてる」
「………髪」
「あ、おはようございますテルミさん」
「邪魔、どけ」
「レリウスさんに怒られますよ、起きましょう」
「ウゼェ」
「じゃなくて、ほら」
「……………」
「サーッと、生ジュースくらいなら作れますけど。飲みます?」
「…ウゼェって」
「私は飲むので。テルミさんも気が向いたら飲んでくださいね」
「……着替えんだよ、出てけ変態」
「…はいはーい」


寝起きでもこれか、可愛くない。



20131030

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