Case1

第四魔道師団配属希望、そう書かれた書類に目を落とし、ハザマは瞳をゆっくりと閉じる。ああ、またか。イブキドの消滅とともに第十二素体は失せ、ヴァーミリオン家にノエルという名を持つ少女が存在する可能性は潰えた。

ジン=キサラギの秘書官になるのはツバキ=ヤヨイ。ハザマが(レリウスも、だろうか)望むノエル=ヴァーミリオンが卒業を前に引き抜かれ秘書官となるそれはもはや有り得ない。そんなことは、この書類が届く前から解りきっていたことではないか。


「何故、諜報部のハザマ大尉がご覧になっているのですか?」
「諜報部だからじゃないですか?ほら、このツバキ=ヤヨイという子、あのヤヨイ家の生まれで成績優秀でしょう?希望通り第四師団に配属される上、ジン=キサラギ少佐の秘書官というのも決定事項だそうで」
「…で?」
「我等が世界虚空情報統制機構の一員となる少女ですから、諜報部が把握をしておくのは当然のこと。貴女もそのためにいらしたのでは?ナマエ=ミョウジ中尉」
「………」
「あ、名門十二宗家の出身ですから同じ階級ですね」


へらりと笑えばナマエは不愉快そうに眉を寄せる。第零師団所属、ナマエ=ミョウジ中尉。別名ゴミ処理部隊とも呼ばれる者達が衛士の身辺を把握しておくのは、なんら違和もなければ疑問も嫌悪もありはしない。何せ諜報部から暗殺を伝えることもある間柄、だからと特別懇意な人間はいないが、ハザマを見て態度を悪化させたナマエはそれだろうとレリウスは喉を鳴らす。


「諜報部には――…ああ、マコト=ナナヤ…並外れた身体能力ですね」
「話題逸らしました?」
「いいえ。よかったじゃないですか、可愛らしい部下が出来て」
「おや、随分と冷たいことをおっしゃいますねぇ。私は貴女のような、淑やかな女性が好きだというのに」
「騙すのは不得手で?それとも、それもわざとですか?大尉」
「あららぁ、信用ないですね私」


レリウスが驚くような感情ではないにしろ、ナマエには興味がある。永遠とも思われる世界で顔を合わせることになる女、深く物語に関わる人間でもなければ脇役ですらないが。


「なんですか、人の顔をじっと見て」
「お暇なら食事でもどうかと思いまして。いかがです?」
「…ゆで卵と紅茶?」
「やだな、好きなものを食べたらいいでしょ」
「よく身体に害が出ませんね」
「戦闘は苦手ですけど、健康には自信があるんです」


さて、秘書官はどんな死に様を披露してくれるのか。心の慰めになればまあ及第点、求める少女には、腕を伸ばしても触れられない。



20120604

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