部屋割り

「ここがテメェの部屋な」
「はあ」
「荷物はま、多分運んであんだろ。足りなかったらハクメンに文句言っとけ」
「はあ」


話を聞きながら私は昼間のことを思い返す。言われるがまま着いていったのは随分と雰囲気のある古書店で、それはもう美しいとしか言いようのない並び方をした大量の本と所々に置かれたアンティーク、まるでホテルだ、あれは。そして店主のレリウスさん、彼がハザマと呼んだことで私はこのがさつな人がテルミさんだと理解に至った。つまりおっさんとは、ヴァルケンハインさんのことらしい。

その古書店で働いているテルミさんはレリウスさんが引っ込むと柔和な笑みを浮かべ、実に丁寧な口調で店番を始めた。ハザマ、として。まあそれも数時間の話、「覚えたろ」と適当に投げられ後半は私が頑張っていたのだが。金髪の学生に椿色の髪をした学生(お友達らしい二人は興味がなさそうだったけど)、ゴスロリの女の子(「随分と可愛らしいお嬢さんが店番なのね」と言われたが)と、店主が個性的なら客も個性的なようだ。


「テルミさん…?」
「あ?」
「…テルミさんでいいんですね」
「そりゃそうだろ。で?」
「あ、はい。今日来てた人達って常連の方ですか?特にあの小さな女の子、テルミさんのこと知ってるみたいでしたし」
「まーあれはな。おっさんの知り合いだし」
「おっさん…」
「そこの部屋のヴァルケンハインだよ」
「…はあ」


一番手前、そこがヴァルケンハインさんの部屋らしい。隣がテルミさん、向かい側がハクメンさん。元獣兵衛さんの部屋現私の部屋はそれらを見守るように構えている。何だこの番人みたいな位置は。


「そういえば、ヴァルケンハインさんとハクメンさんって」
「テルミ、誰か来ているのなら言付けておけと何度言わせる。貴様の腐った脳味噌には――…」


何をしているのか。聞く前にヴァルケンハインさんの部屋の扉が開いた。どういうことだ、だって帰ってきたときに「まだどっちも戻ってねぇな」ってテルミさんが。でも今、確かに私の目の前には人がいる。これまた普通の人は着ないだろうスーツを身に纏った老人。老人だ、間違いなく。


「…おや、これは初めましてですな、お嬢さん。私はヴァルケンハイン=R=ヘルシングと申します。本日おいでということは、ナマエ=ミョウジ殿ですかな?」
「はっ、はい!ナマエ=ミョウジ、です」
「そうでしたか。いや、お出迎え出来ず申し訳ない限り。そこの外道が案内などと、何か不快な目には…」
「それは別に!大丈夫です、はい」
「…そうですか。ミョウジ殿がそうおっしゃる以上、詮索は避けねばなりませんな」


そう言って恭しく礼の形を取るヴァルケンハインさんに困惑と動揺が沸き上がる。何だか傅かれた気分、テルミさんを見ても普通だし、ヴァルケンハインさんは女性に優しい人なんだろうか。


「テルミ、彼女に何かしてみろ。貴様を食い千切るぞ」
「いっがーい。おっさんってロリコン趣味あったんだ?ん?意外でもない?ご主人様も――…あ、ありゃロリババァか」
「貴様…レイチェル様を愚弄するか」
「え、えっと。よろしくお願いします、ヴァルケンハインさん」
「――ええ、こちらこそ。獣兵衛殿のお知り合いとあれば、礼を欠くわけには参りませんので」
「………はい」


テルミさんを睨んだ表情、とても人間とは思えなかった、んだけども。



20130904

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