歳が離れているから、いや、歳、まあ歳か。だからか共同生活が少し上手く行ってない奴らがいてだな。まあ、お前が入ることで一種の緩和剤になってくれたらと思うんだが。獣兵衛さんの言葉はつまり、そういうことで。
男所帯だがそこまで意識をする必要はない、家事もあまり心配しなくていい。必死さを滲ませていた獣兵衛さんは、どうにも結婚をするらしく。近々その家を出ねばならず、だからと放置は気乗りがしない、と。そこで浮かんだのが私だったそうだ。一瞬だけちらついた弟子(剣道だか格闘だかの)は気の迷いということで却下、これも運命なのだと真剣な顔で言われてしまった。
私でいいのだろうか。なれるのだろうか、緩和剤に。あの獣兵衛さんでも苦労したと言っていた。特に一人の大問題児(という呼称すら可愛いとか)は本当に腹が立つと。獣兵衛さんにそこまで言わせるとは、どれだけの人なのだろう。
「…ここ、か」
一見なんの変哲もない家。それでもこの中には獣兵衛さんをあそこまで不安にさせる存在が集まっているんだ。確か三人、ハクメンさんにヴァルケンハインさん、あとはテルミさん。ハザマ、と口にもしていたけどそれは一人としてカウントはしていなかった。「まあ、テルミでハザマだな」というよくわからない答え、行き着いたのは二重人格という結論だけど、扱いには気を使うべきなんだろうか。
「あら、家に何か?」
「あ、ああ、えーっと…私、ナマエ=ミョウジと申しまして…あの、獣兵衛さんからお話がいっているかと思うのですが、」
チャイムを鳴らそうとしたその時。開いた扉から覗いた姿はすらりと背の高い、ちょっと変わったスーツの男性。ハクメンさんかヴァルケンハインさんか、テルミさんか。どれかには当て嵌まるはずの人物の声色は穏やかで、まあまずこの人は大問題児ではないだろうと思う。見た目は、若い、かな。
「猫又から?…あ、ミョウジってあれか、あいつの代わりに家に来るって女。はー、あれマジだったわけ」
「えっ?」
「は?何アホ面晒してんだよ。つか俺様これから仕事だしテメェに構ってらんないんだわ。おっさんかハクメンちゃん――…おっさん今いねぇんだっけ。そういやハクメンちゃんも見なかったな」
何やらベラベラと吐き出しながら施錠、私の手に鍵を落としすと豹変した男の人は顎で指示を出す。着いて来い、ということだろうか。でも家は。
「夜には全員集まんだろ。取り敢えずそれまでだな」
「あなたと一緒に行くんですか?」
「人手がある方が楽できるし。早くしろ」
「どういう…置いてかないでください!ちょっとあの!ねえってば!!」
それからあなたはヴァルケンハインさんなんですか、テルミさんなんですか!?
20130903