「少佐、ノエル=ヴァーミリオン少尉であります」
緊張した声。暫く間をおいてから届いた「入れ」の声にノエルは一瞬だけ胸を撫で下ろした。扉を開ける、黙々と手を動かしているジンはノエルをちらりとも見ない。
「……いない」
「…ナナヤ少尉?」
中を覗いて思わず零れたマコトの呟きを拾ったジンが顔を上げる。ノエルと同じ金の髪に、ノエルと同じ緑の目だ。
「いないとは、何の話だ?」
「いえ。今ちょっとですね、ハザマ大尉を捜してて。キサラギ先輩か各師団長に急な報告でも入ったのかな〜なんて…」
「ここにはヴァーミリオン少尉くらいしか来ていないが」
「そうですか…ありがとうございます、先輩」
「いいや。……ん?」
ジンは今の今までわたしに気づきもしていなかったらしく、訝しげに顰められた眉には疑心がありありと浮かんでいる。込み上げてきたのは多分、恐怖だ。
「それは?」
「失礼いたします、少佐」
「…ツバキか」
「お久しぶりです、キサラギ少佐。実はこの子、人を捜しているようでして。キサラギ少佐はご存知ないですか?」
「――…いや」
ツバキの手が肩に触れ、「怖くない」と言われたような気がした。ツバキの凛々しい雰囲気とは違う鋭い目、散々睨みつけていたジンは興味が失せたのか、既に書類に視線を戻している。
「知らないな。見たことも、身内にこんな子供がいるという話も聞いたことがない」
「貴重なお時間を割いていただき、感謝いたします。…やはり、相応のところに頼んだ方がよさそうね」
「だね〜。ハザマ大尉もいないし、あたしも捜しに戻らなきゃ。ツバキもその子連れて一緒に来る?まず当たってみて間違いはないだろうしさ」
「そうね。では、失礼いたします、キサラギ少佐。…貴女も」
「…ノエルは」
「ノエルはここに用があるから。あたしたちがいたら駄目な報告かもだし、さっさと出る出る!」
すっかり怯えたノエルと目が合う。連れていった方がいいんじゃないかという考えは、一体どんな気持ちから発生したんだろう。
「ノエル、今度お話して」
「あ……うっ、うん!私でよければ!」
ジンは何にも、興味がないらしい。
20120601