人形師

まったく動かなかったはずなのに、突然鉛のようだった瞼が軽くなる。開いた先に映る背中、この広い背中は誰のものだろう。


(………違う)


確かにこの人は絶対的な人、けれどわたしはこの人のための存在ではない。声を出して目覚めたことを伝えようか。そうは思ったけれど声は上手く出ないようだ。何か塊が突っ掛かっているような。手足は、動くらしい。


(わたしは、…あ)


わたしが会うべき人、行くべき場所。深く考えなくてもすんなりと浮かび上がったそれ。刻み込まれている、というのが正しい気がする。


「目覚めたか。……ふむ、どうにもまだ…はっきりとは、していないらしい」
「……?」
「起動確認を……まあ…お前は、戦闘兵器ではない。ただの…監視人形だ」
「かんし…」
「しかしどうにも…予想より、遥かに……幼い」
「行か、なきゃ」
「……ほう」


身体を起こす。
仮面の男は表情一つ変えず(そもそも、口と声でしか感情を確認できない)わたしの動作を見ているだけらしい。手を貸す気も、咎める気も。何一つ、ないようだ。


「自覚は…あるか。ならば止める必要は……ないな」
「統制機構」
「そうだ。行ってこい……ナマエ」


それがわたしの名前。ちゃんと、わかる。



20120530

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