Case8.5

過ごした環境が強く影響し、第十二素体――またの名をノエル=ヴァーミリオンのみが豊かな感情を持ち合わせているのだと思っていた。死神と対峙した際の第十三素体は変化が見えるとはいえ人間と称するには単調、そんな機械に近い十三素体も、真っ赤な瞳を驚愕で見開くように出来ていたらしい。


「――来た」


伸ばされたか細い腕を求めるように男が腕を上げる。一見頼りないそれも彼にとっては何より頼りがいのあるものだ。触れ合う掌、絡む視線。男を引き上げようと試みる少女と色が異なるだけの同種は「離れたくない」と言いたげに男を掴もうと手を伸ばす。


「ま、これでノエル=ヴァーミリオンにゃ用なくなんだけどな」


自然と唇が愉悦を形作る。落下する人形には見向きもせずただ眼前の妹と瓜二つの少女を見詰める男の心中を覗くことが出来るのなら、大層面白いことになっているのだろう。だってあの子は過去に縛られてばかりの、弟を馬鹿には出来ない弱虫なのだから。


「しっかし、上手く動いてんじゃんあの模造品」


吸血鬼に与えられた人間とは程遠い腕。とは言えラグナ=ザ=ブラッドエッジ自体が人間とは呼べぬ存在であるため、腕一本が失敗作になったところで「人間じゃない」と絶望するほどでもないのだが。


「だがノエル嬢は――…」


自分を人間だと信じて疑わぬ人形が同種の末路を聞かされた際に浮かべる表情とは、どんなものだろう。想像を巡らせるだけで心が躍る。世界を憎み破壊だけを目的とする剣。もう少しで、あれに会えるのだ。


「…手配しとくか。しっかり脱走して追っ掛けろよォ?ゴミが悲劇のお姫様演じるためにもなァ」


近づいてくる、長年望んだものが。部品は揃ったのだから後は導くだけだ。存在する部品は単純なものばかり、容易くシナリオ通りに動いてくれるだろう。


「それ気取ってもらわねぇと困るんだわ。…なあ、居場所を奪ったノエル=ヴァーミリオン?」


ノエルが存在しない世界ではツバキはジンの秘書官であり、ツバキが収まる第零師団にはナマエがいた。多少の違いはありながら死神と人形、えいゆうが落ちることで繰り返されていた物語。漸く終わりを迎えるそれの中でナマエと出会うことは終ぞなく。

死んでいるという彼女だが、ノエルの生存率が上がるように生きたまま話を進めることも可能なのだろうか、と。不意に浮かんだ考えは、興奮を静めるには十二分で。


「――…ナマエ、」


目的はアマテラスを破壊すること、そのためにはイブキドで第十二素体に消滅されては困るのだ。無事に残りノエル=ヴァーミリオンという名を与えてもらわねばハザマの、テルミの望みが叶うことはない。

何よりだ。
ナマエの想い、それを再び感じたいとも彼女と永遠に近い時をとも、この心は思っていないだろう。


「居場所を奪ったのは、誰なんだろうな?」


証拠にほら。

悔しそうに歪む吸血鬼の表情も、こんなにも容易く心を満たす。



fin.

20120731

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