Case7.5

「あれは本音ですか?」
「あれ?」


魔操船の中、口を閉ざしていたナマエが声を出したかと思うと何やら妙な質問が飛び出した。逸らしていた顔を向ける、彼女はハザマを見ることなく言葉を発したようだ。


「…ヤヨイ中尉にやらせるのは酷だと」
「ええ」
「では何故、キサラギ少佐のことを伝えたのですか」
「伝えずにいてキサラギ少佐が遺体で見つかったら、ツバキ中尉は間違いなく自分を責めるでしょ?あと、キサラギ少佐を捜しているようだったので」
「だからって」
「どちらが酷かなんて所詮は主観に過ぎません。私とナマエ中尉、正しい方を決めるのは難しいですよ」
「…それはそうですが」


苦々しく歪む表情、物事に心を痛め砕く姿はやはり愉快だ。ジンを連れ戻そうとするノエルもであるし、ツバキもまた。そんな彼女らを案じるマコトも、同じと言えるのだろうか。


「いや、罪な男ですね、キサラギ少佐は」
「は?」
「我が身を犠牲にしても構わない、見返りなんて必要ないから連れ戻したい――…そう強く思ってくれる存在がいるのに死神なんかにかまけて」
「かまけるって…やはり大尉は死神を捕らえるためではなく、会うために少佐がカグツチに向かったと?」
「模範的な人物ではあれ積極的に貢献していたかは、ほら。いずれという可能性はあったにせよ、今回はまだ命令下ってませんし」
「………」


そう悩まずともこの世界が残ることはないのだ。終わらぬ物語、出会うかはわからぬ目の前の存在。そんなナマエもまた、ジン=キサラギに。


「ナマエ中尉」
「…はい?」
「自分に置き換えてみて。例えば今回失踪したキサラギ少佐が私、ツバキ中尉がナマエ中尉だったとして――…どうです?殺しますか?」
「何故、大尉と私なのですか」
「目の前にいるのが私なので。あ、ちゃんとツバキ中尉の気持ちになって考えてくださいね?」
「ヤヨイ中尉とキサラギ少佐が幼少より親しいことは知っていますが…」
「親しい相手、恋しい相手を手に掛ける…ナマエ中尉には出来ます?」
「恋しい――…」


視線が交わるとナマエは大袈裟に肩を揺らした。薄く色づく頬、音は出ずただ開くだけとなった口は、明らかに彼女の動揺を知らせている。


「…ナマエ中尉って」
「は、はいっ」
「私のこと、好きですか?」
「それはそのっ、ヤヨイ中尉がキサラギ少佐に抱いている感情の、好き?」
「ええまあ、そうなりますか」
「それは、」


先程よりも赤くなった顔、それを見てもハザマの精神は変化しない。やはりそうだ、何の問題も、ない。


「……ご想像に、お任せします」
「愚鈍なものですから。先程は機嫌が悪そうでしたし、嫌われてますかね」
「嫌ってなど!」


望む世界に彼女はいない。イブキドの消滅と時を同じくして、死ぬのだ。


「それは意外な」
「…興味がないのなら聞かないでください」
「いや、すみません」


だからどうした。
今そこにいる彼女を抱きしめたいなどとは、思わないではないか。



20120729

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