Case7

らしくない慌てぶりだと、外から聞こえる足音にそう思う。どうにも迷いなくここを目指しているらしいが、一体何の用事があるというのだろう。


「ナマエ=ミョウジ中尉であります。ハザマ大尉、お時間よろしいでしょうか?」
「はいどうぞ」
「失礼いたします」


漸く認識した険しい表情は間違いなくハザマに対しての感情なのだが、さてまったく覚えがない。今にも叫びだしそうな気配、結ばれた唇にすら苛立ちが溢れているように見える。


「どうかしました?」
「お尋ねしたいことがあります」
「あー…それって時間掛かります?私これから行くところがありまして、」
「ヤヨイ中尉に何を吹き込んだのですか」
「はい?」


ヤヨイ。ヤヨイとはツバキ=ヤヨイのことだろうか。この世界でも変わらず親友であるマコト=ナナヤが気に掛けるのであれば理解も出来るが、今ハザマに食って掛かっているのはナマエだ。言葉を交わしたことがないとまでは言わずとも、ナマエとツバキの間には絆と呼べる類のものも存在していないはずだが。


「はい?ではなく。ヤヨイ中尉に何を吹き込んだのか、と伺っているのですが」
「何って何です?」
「ヤヨイ中尉が第零師団への転属を希望して――…ハザマ大尉と話しているのを見たという衛士がいたものですから、ご存知ではないかと」
「転属?ツバキ中尉が?…あらら、ならツバキ中尉ではなく少尉ですかね」
「ハザマ大尉!」
「やだな、そんなに怒らないでくださいよ。私はただ、ほら、ツバキ中尉はキサラギ少佐の秘書官でしょう?だから教えないとと…」
「何を、ですか」
「えーっと…まあ、私もこれから向かうのですが……カグツチで、ちょっと」
「――…カグツチ?」


先を促す瞳。ツバキに関してこのような反応を見せるとは少しばかり意外だ。単純に第零師団の性質を懸念しての抗議なのだろうが、そう案じずとも彼女自ら第零師団への配属を望む世界は存在する。つまりは杞憂、まあ、それを話したところで理解は得られないのだが。


「これはまだ内密な…んー、ナマエ中尉ならいいですかね、第零師団ですし。私と行動してもらったほうが都合もいいかな」
「私もカグツチに?」
「他に用が?」
「いえ、特には…」
「では準備を。上には私から伝えておきます」
「大尉」
「お話しますよ、ちゃんと」


ハザマの体、衣服といっても差し障りはないが、そこを掴もうと動いた手は不安を覚えたからなのか。求める存在として適切とは到底思えない、誰かに求められたいなどと思ったことさえないが。


「ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。勝手に彼を捜しに行っちゃったんです、キサラギ少佐」
「え?」
「ツバキ中尉はそれを追って。秘書官よりも第零師団の方が動きやすいと考えたのでしょうねぇ、いや!実に健気だ」
「…キサラギ少佐が?一体何故、」
「さて、それは私にも。万が一死神と繋がっていたなんてことになれば大問題でしょ?そこで第零師団所属ナマエ中尉の出番ですよ!…と、いうわけで。よろしくお願いしますね」
「――…殺せ、と?」
「場合によっては。ツバキ中尉にやらせてしまうのは酷ですし」
「………了解」


そういえば、このお決まりの劇にナマエが参加するのははじめてか。

少しは愉快な展開が待っていれば、いいのだが。



20120728

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