Case6

さて、今の状況が苦痛かどうか考えてみるとしよう。ツバキ=ヤヨイは第零師団の中尉、これは転属ではなく本人たっての希望だ。それからノエル=ヴァーミリオン、彼女はこの世界に存在している。


「…最高以外に何があんだよ」


痛みを訴える要素などなく、現に自分自身なんら変化もなければ欠けた感覚も抱いていない完璧な状態だ。レリウスが期待する(しているのかは謎だが)異常というのは、ただの勘違いに他ならない。


「んで?」
「…どうした?」
「どうした、じゃねぇよ。ああだこうだ言ってたのはテメェだろ?何不満そうな顔してんだ」
「見間違い…だろう」
「あーそうですかァ」


レリウスに呼び出されたときには何事かと思ったが、彼は単純に現在のハザマの様子を目にしたかっただけらしい。ナマエ=ミョウジが存在しない世界、ここでのハザマがどうであるか。毎度飽きぬものだと揶揄してやりたい気分だが、確かに新たな世界に来る度にナマエとの交流は増えている。創造主はそれによる精神の変化を期待しているのだろうが、だ。


「ごめんなさいねェ〜、期待に添えなくて」
「構わん」
「………」


入るなり一言も発さずただハザマを眺めて、興味が失せたとでも言うように視線を逸らした男。何がしたいという質問は無駄でしかないとわかるからこそ余計にうんざりする。


「…そう。楽しめたか?ハザマ」
「何が」
「ナマエ=ミョウジとだ」
「何もねぇよ。何期待してんだ」
「期待など……していない。貴様が一個人に構うのは…珍しい、のでな」
「ノエル=ヴァーミリオンとジン=キサラギは」
「それは目的に必要な…人材だ。ツバキ=ヤヨイやラグナ=ザ=ブラッドエッジ……これも…だが」
「はいはい」
「ナマエ=ミョウジは、違う」
「聞き飽きた」


彼女、ナマエ=ミョウジに対する動きを疑問に思っているのはハザマとて同じ。結局あの時はナマエに触れようとしたらしい自分自身に気味の悪さを覚えて、事を起こす気にもなれなかった。まあレリウスの言葉や手を伸ばすという行為がなければ何かした、ということもないのだが。


「――…ここでのナマエだが」
「あ?」
「イブキドの崩壊……あれで死んでいる、らしいな」
「だったら、ああ。ノエル=ヴァーミリオンが秘書になるからツバキ=ヤヨイが第零師団に行くのと同じか?」
「どうだ?ハザマ」
「別に」


イブキドの件でイカルガが滅んだ、そうなっている世界もある。ノエルにしてもどちらの可能性も持つ存在ではないか。


「死んでる、ね」
「会うことはない……意味のない、存在だ」
「寂しいとか言うの期待してんの?」


馬鹿らしい。そう、吐き出せなかったのは。



20120727

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