Case5.5

「…丁度いい」


書類の整理を終えて部屋を出るとよくよく見慣れた男の姿。ハザマの横で目を丸くするナマエを認めた男――レリウスは、溜め息にも似た呟きを漏らすと優雅に口許を緩ませる。


「レリウス=クローバー技術大佐?」
「…成る程、第零師団の……これが、ナマエ=ミョウジか」
「私を…恐縮です、クローバー技術大佐」
「それに、聞いてな」
「それ、…ハザマ大尉?」
「ふっ」


疑問に満ちたナマエの表情に愉悦と称して差し障りないレリウスの表情。何とも腹立たしいことだが、今はハザマを崩すわけにはいかない。それを理解しているからかまでは読めないものの、レリウスは興味深そうに観察をしている。ナマエではなく、ハザマを。


「…何ですか。気持ち悪いですよ、大佐」
「珍しい。まあ確かに、貴様は気が短いが……ああ」
「だから、何ですか?」
「ハザマ大尉っ、技術大佐に失礼では――…」
「何…気にする必要は、ない。…どうだ?ハザマ」
「どう?どうって何が?」
「……随分と…荒れるな」


ハザマ、と。忠告をするように強く名前を呼ぶ創造主。気分を害してくるのは間違いなくレリウスなのだが、指摘すればまたナマエから小言が飛んできそうだ。先程のように、レリウスを庇う類の。


「……嫌か…しかし、それでは」
「勘違いしないでくださいよ。違う、と。以前も申し上げましたよね?レリウス大佐」
「さてどう……ああ、言ったか…」
「やだな、健忘症ですか?一度精密検査をされた方がいいのでは?」
「検査が必要なのは貴様だろう…ハザマ」
「………」


レリウスとハザマの二人に視線を送られたナマエは肩を揺らすと一先ず苦笑を浮かべる。所謂消去法に違いないが、ナマエが助けを求めるように見詰めたのはハザマだ。微かな優越感が、巡り出す。


「席を外します。技術大佐は大尉にご用向きが、」
「いや、いい。…たまには労いも、必要だろう……なあ?」
「労い?気味の悪い冗談は止めてくださいよ、吐きそうです」
「体調不良か……ならばより一層、だな。好きに過ごせ、ハザマ」
「……では帰りましょうか、ナマエ中尉」
「ですが大尉、」
「礼を言おう…お嬢さん。いい見世物だ」
「みせ――…?あっ、お待ちくださいハザマ大尉!」


ほんの一瞬。
ナマエの手を引こうと動いた腕に、肝が冷える。



20120622

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