01

圧倒的な兵力差、相手の精神に揺さぶりをかける戦。ああやって徐々に外堀を埋められ、兵糧まで絶たれてはもうどうしようもない。流石の自分でも冷や汗くらいは掻くだろうと、陥落したばかりの小田原城を見て思う。


それにしても。
当然だが、ここはまるで景色が異なる。生まれであることが影響するのかやはり九州に勝るものはないと思えど、美しい。少し離れただけでこれだ。一体世界とは、どんな姿をしているのだろう。

注ぐ陽光も肌を撫でる風も、知らない。未だ足を踏み入れていない奥州の日は、風は。九州とも、そしてこの関東ともまた趣を変えるのか。外界とは、実に興味深く好奇心を擽られるものだ。


(…旅がしたいな)


ふと過ぎった考えの甘美さに思わず頬が緩む。

秀吉によって天下統一がなされたとはいえ、物事すべてが終息に向かうわけではない。これから忙しくなるのだろう。それならば、旅をするのはずっと先。柳川はギン千代に任せるとして、さて。


(誰を連れていこうか)


流石に揃って留守にするわけにはいかない。己が勝手を通せば文句は言えど諦めるのがギン千代であるから、説得の必要はないわけで。長い旅路を供にする相手となれば、相性や相手の心からの同意も必要だ。己の質を持ってしても、延々と好ましくない態度を貫かれるのは腹が立つというもの。折角だ、楽しまなければ勿体ない。


「…ん?」


心地好い熱を注いでいた光が失せる。何事か。

空へと視線をやると何とは確認できないものの、塊。そう、塊が、落ちてくる。


「――…人?」


人間が空を飛ぶなど聞いたこともないが、関東には当たり前のように存在しているのだろうか。もしくは妖怪の類。例えば妖怪だとして、己を騙して何になる。

しかし絶世の美女にでも化けているなら靡いてしまうかもしれない。塊が妖怪とも女とも限らないのだが。


「…天人か何かか?」


それとして、助けてやったら何をしてくれるのだろう。まず邪な考えを抱いた人間に褒美を与える天人などいないと思うが。自嘲しつつも取り敢えず、抱き留めるように手を伸ばす。



20110531

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