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結局あの世界は何だったのか。私が目の当たりにしたのは西軍の勝利のはずなのに、教科書に書かれた勝者は変わらず徳川家康だった。気になって調べてみると、宗茂さんは徳川家康が勝利する流れであれ生きているらしい。同じようで違う人としても、安心だ。

それと。
私が鳥居を潜ってここに戻ってきたあの日。歴史通りなら十年という年月を過ごしたはずなのに、実質十日しか過ぎていないという奇妙な現象が起こったのである。友達には風邪を引いて休んでいたと説明したけど、レポートは死に物狂いだった。


「お」


つい呟いてしまい、思わず口を押さえる。あれから一年。マンションに、誰かが引っ越してきたらしい。


(一人暮らしかな?トラック小さかったし…)


去っていったトラックを思い描きながらエレベーターのボタンを押す。そういえば隣の部屋が空いてたっけ。そこかな。だったら顔くらいは把握しておきたいかも。ぐるぐるとそんなことを考えていると扉が開く。鍵はたしかポケットに、っと。


「っ、あ、すみません」
「いえ、こちらこそ」
「…………え?」


聞いたことのある声。
一年も前になる、まるで長い夢のような出来事。驚いてぶつかった人を見上げると、だ。


「…ああ、この階の方ですか?」
「はっ、はい!たぶん、隣の。空いてるのそこしかないはずなので」
「丁度よかった。私、今日引っ越してきた高橋です」
「た、高橋さん。あ、私、みょうじです」
「みょうじさん。よろしくお願いします、これから」


その声は、微笑みは。

間違いなく、宗茂さんだ。



fin.

20111122

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