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豊臣方の勝利と聞いて、なまえはどんな顔をするのか。嬉しそうに笑って、「宗茂さん」と言いながら俺に駆け寄って来るのだろうか。色々と思いを巡らせていたのが、随分と前に思える。

つまり。
ギン千代なりに素直な態度で再会を喜ばれたこともあり、単純にそう考えていた俺は無言で飛び付いてきたなまえに上手く反応が出来ていない。

一瞬見えた表情は複雑で、横にいるギン千代と目の前の巫女さんを交互に見ては取り敢えず頭を撫でてみるくらいしか思いつかなかった。


「なまえ」
「………」
「黙っていたらわからない」
「なまえ、宣言通りこいつは生きて戻った。再会したときも相変わらず憎らしい軽口を叩いていたし、問題はないぞ」
「…何だそれは」
「事実だろう」


心底、呆れたような顔と声。戦が起こらないことを祈ってはいるが、まさかギン千代が素直に吐露をするのがあの一度きり、とは言わないよな。


「仲がよろしいこと。羨ましいわあ」
「それはどうも。…ところで巫女さん、君はどうしてここに?」
「なまえちゃんに言わなあかんことがあって」
「なまえに?」


巫女さんの言葉に導かれるようになまえに視線を落とすとギン千代も同じようになまえを見る。相変わらず動かないなまえ、泣いているわけではないらしいが、物を言わないというのは困ったものだな。


「――…何かな?」
「なまえちゃん、生まれた時代に帰れることになりまして」
「え?」
「家康様が三方ヶ原に言う話を聞いたとき、小田原のと同じ変化を感じたんどす。あれがなまえちゃんが落ちてきた証や言うんなら、今回のは帰れる証や」
「……成る程」


帰りたいと願っていたなまえ。だが、帰りたくないという気持ちもあるのだと言っていた。いざ現実を目の前に掲げられたとき、溢れ出た感情の処理が上手く出来なかったのだろう。だからこうして。


「ギン千代」
「何だ?」
「俺は前々から旅がしたい、と話していたな」
「…ああ。まさか、」
「いいや、そのついでに出雲まで送るだけだ」
「また、城は任せたか?」
「話が早いな」


言葉の代わりに零れたのは、盛大な溜め息だ。



20111121

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