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「どうした、坊ちゃん」


どうにか関ヶ原に辿り着いた。今のところは、柳川が危ないという話もギン千代に何かあったという話も聞いていない。大きな問題は、何も。


「いや。中心であるはずの男の弱気には困ったものだ、と思ってな」
「お嬢の心配でもしているのかと思ったが、違ったか」
「あいつは平気だ。多少の逆境くらいなら簡単に跳ね返すさ」
「ふっ、違いない」


俺が大津に向かい、ギン千代が柳川を守るべく兵を調えていたとき。不安そうに瞳を揺らしたなまえは、何を考えていたのだろうか。あいつはその目で見ていようと、死なないという言葉を素直に信じることが出来ないらしいからな。


「坊ちゃん、徳川は強大。結束もこちらと比べれば雲泥の差よ。…さて、どうしたものか」
「鬼が弱気とは珍しい。空気に呑まれたか?」
「それだけ言えるなら上等。珍しく悩むような顔をしていたから尋ねてみたが、勘違いか」
「俺ではなく三成に言ってやったらどうだ?」


返した言葉も、勝ち誇ったように笑う島津には効果などないだろう。

悩むよう、か。
なまえが何を危惧しているのか、それがわからないのは確かに悩みかもしれない。顔に出したつもりは、なかったが。


「あれには言葉だけでは難しかろう。戦で示すしかあるまい」
「確かにな。俺も柳川に戻らなくてはならないし、俺達で流れを変えてやろう」
「勝つか」
「当然だ」



生きて帰ると約束した。
呆れたようなギン千代と憂いの消えたなまえの顔を見るために、切り開くとしようか。



20111121

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