大津城。
宗茂さんが向かう先は、そこらしい。ギン千代さんも私に城から出るなと言い残して戦地へと向かって行った。
私には何も出来ないことも、出しゃばれば余計な手間を掛けてしまうこともわかっている。だけど、心苦しい。大人しくしていることが一番の恩返し。申し訳程度に薙刀を横に置いてはいるけど、これだって扱い方を少し習ったくらいで、誰かを守るために立ち回れるかと言われたら微妙なところだ。剣道や弓道でもやっていれば違ったのかな。いや、それで真剣が使えるかは別問題か。
「大津城…」
宗茂さんは、さっさと片付けて本隊と合流すると言っていた。この土地はギン千代さんに任せているから心配はないと。確かにあの声は揺るぎない自信に溢れている、けど。宗茂さんが言うから大丈夫なんて、長い間生活を共にしていても、私は宗茂さんを無条件で信じられるギン千代さんのようにはなれない。
文禄でも慶長でも無事だった、だから今回も。そう思おうにも西軍が負けるという事実は変わらないし、戦場での宗茂さんを知らない私には難しすぎる。
「……どうしてるのかな」
阿国さんと過ごした日、ギン千代さんと過ごした日。どちらも宗茂さんの様子を知ることは出来なくて、どうなるかもわからなくて、怖かった。今回は、知っているから怖い。それなのに肝心なことが言えないんだ、何故か言葉に出来ないんだ。
「宗茂さん、」
ギン千代さんのような心を持ちたい。「大丈夫」というその言葉を、心から信じられる彼女のように。
20111121