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豊臣秀吉の死というのは、ただ教科書で読むだけ、言葉として先生に聞くだけとはまるで違う。ここで生まれたわけではない私にも、これまでとは比べものにならないざわめきが城を支配していると理解出来るくらいだ。

豊臣秀吉に取り立てられたという立花がこうならば、立花以上に深い繋がりのあった人達は。


「――…不味いな」


深刻な色を滲ませた宗茂さんが呟けば、ギン千代さんも何時にも増して険しい表情になって。頻繁に柳川城を訪れるようになったギン千代さんは宗茂さんと顔を合わせる度に真剣に言葉を交わしていて、それが更に、私の緊張を高めていく。


「秀吉殿に続いて利家殿まで。…避けられないだろうな」
「三成は頭が固い。あいつの思いが間違っている、とは言わないが」
「人のことを言えた立場か?どうせ、」
「その場合、城は任せる」
「……呆れたものだ」


石田三成。石田さんは、西軍だ。ギン千代さんの反応からして、宗茂さんは。


「あ、あの!」
「どうした?なまえ」


関ヶ原の後、石田三成は死ぬ。西軍は負ける。宗茂さんが西軍に味方すれば、宗茂さんは勿論ギン千代さん、立花家の人達だって死んでしまうかもしれない。


「宗茂さん――…立花家は、石田さんに味方するんですか?」
「三成にというよりは秀吉様に、だな」
「同じことだろう。無駄だなまえ、こいつは一度言い出したら聞かん」
「そう、ですけど…」
「何かあるのか?」


不思議そうでいて、何処か穏やかに私を見る宗茂さんの目。

石田さんは負けます。だから徳川家康に付いてください。心の中では叫ぶことだって出来るのに、まるで言葉にならない。


「…だって、勝てるかは」
「それは徳川に組しても同じだろう」
「今の豊臣よりは遥かに勝算があるがな」
「それを変えるのが人間だ」


どうしてそんな風に自信を持てるんだろう、根拠なんてどこにもないのに。ギン千代さんも、呆れながら宗茂さんを信じているように思えるし。どうしてそんな風に、二人は。


「なまえ。お前が何を知っているのかはわからないが、だ。未来は変えられる。願う人間がいる限り」
「……でも」
「信じろ、俺を」


力強い視線に困惑してギン千代さんを見ると、彼女までもが宗茂さんと似た表情を浮かべていた。

信じる。
宗茂さんを、ギン千代さんを、人間を。


「私は」
「俺は死なない。ギン千代もだ。今回も、生きて戻る」


信じていたら、未来は変わるだろうか。



20111120

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