「ギン千代さん?」
目を落としていた手紙から顔を上げ、私を見るギン千代さん。見慣れた真っ直ぐな瞳には何故か別の感情も混ざっているように見えて、思わず首を傾げてしまう。
「…宗茂が戻るそうだ」
「宗茂さんが!?生きて、よかった…わ、久しぶりですよね!」
「なまえ」
「は、はい…?」
眉を寄せたギン千代さんは強い音ではしゃぐ私の名前を呼ぶ。怒っているわけではない、みたいだけど。確かにちょっと、楽観的すぎたかもしれない。ギン千代さんは戦を知っている人なんだから。
「お前は忘れて―…いや、戦に関わっているわけでもないし、経験もないのだったな」
「そうです、ね」
「それにしても、だが。宗茂始め九州諸将が残留になったのは何故だ?」
「えっと…あ、再出兵に向けての城の守備、でしたっけ?」
「そうだ。しかし再出兵の話はまだ出ていないはず。…何故戻される」
「……やめた、とか?」
「まあ、私達が考えたところで答えも出んが」
迎える準備もしておかなければと零すとギン千代さんは手紙を懐に入れてしまった。当然ながら宗茂さんからではないわけだけど、なら誰から。まあ、私に言う必要はないか。
「まずは労ってやるか。立花の人間ならば、功を上げていて当然だからな」
「そんなものですか?」
「そんなものだ」
今回の戦は、慶長。必死に高校時代の授業を思い出しながら終結の理由を探す。
「……ん?」
「なまえ?」
「いや!あ、宗茂さんが戻ってくるから、やっぱりギン千代さんも嬉しいのかな、と…」
「………お前、宗茂と過ごした所為で影響が及んだのではないか?」
微かに頬を染めながら忌ま忌ましげに零される。本当にごめんなさい。だけど、曖昧な記憶を口にするわけにはいかないんです。
(――…確か、慶長の役は)
豊臣秀吉が死んで、撤退を余儀なくされた。そうして幕を閉じたんだ、明確な勝利を得ないまま。確か、彼が死んだ後には。
(徳川家康と石田三成が、)
関ヶ原、だ。
20111117