バタバタと、城内は目に見えて慌ただしい。今朝から宗茂さんの姿を見ないと思えば、何やら豊臣秀吉に会いに行ったとか。豊臣秀吉が何の用だろう。
「――…慶長」
零れ落ちた単語にああ、と自分自身で納得する。そうか、慶長の役。つまりまた、行ってしまうんだ。
「なまえ」
久しぶりに聞く凛とした女性の声。振り返るとそこにいたのは、やっぱり。
「ギン千代さん!」
「宗茂はもう出ているか」
「はい。えっと…」
「まあいい。文にも書いてあることだ、構わんだろう。あいつもあとで読む」
「はあ…」
「暫く、なまえには私の世話をしてもらおうと思ってな」
世話。出雲にお世話になったように、今回はギン千代さんのところに厄介になるということだろうか。宗茂さんはまた留守にするから、いや、でも。それなら別に、私はここに残っていても問題ないんじゃ。
「宗茂がいない間は私が城を守備せねばならん。頼んだぞ、なまえ」
「え?は、はいっ!」
城の守備。
ギン千代さんの世話というのはつまり、私がギン千代さんのところでお世話になるという意味ではなくギン千代さんがここ柳川城に留まる、ということなのか。宗茂さんに代わって立花の土地を、ギン千代さんの言う、誇りを。
「よろしくお願いします!ギン千代さん」
微笑むギン千代さんは、まさしく女城主の顔である。
20111117