すっかりもやもやしてしまった。布団に潜りながら眉を寄せていると、外からはまだ楽しげな笑い声が聞こえてくる。
私も本当なら働いているべきなんだろうけど。そう思ったところで私の目を覆う掌。この手の持ち主によって、私は部屋に戻されたんだ。
「休め」
「眠たくないです」
「そうか」
「…お酌しますか?」
「酒は持ってきていないな、残念ながら」
掌を外されると開く視界、充分に暗いけどさっきよりは少し明るくなった。目に映る宗茂さんは、楽しそうだ。
「……ギン千代さん」
「久々にあいつに会えて喜ぶ人間が多くてな。つい嫉妬をしてしまいそうだ」
「それ」
「ん?」
「……………いえ…」
ギン千代さんを取られた気がしてなのか、城の人間を取られた気がしてなのか。そもそもここは立花の城なんだから、取られたという考え自体がおかしいんだろう。お互い嫌いあって別居しているわけでも、ないんだし。
「何が気に入らないんだ、お前は」
「何もないですよ。気に入らないことなんて」
「意地っ張りだな」
「……。自分でも上手く整理が出来ていないので、話したくありません」
「その言い訳なら受け入れておこう」
「言い訳…」
宗茂さんにとってギン千代さんは妻で女。だったら私は、何だろう。恩人であり男。恋愛感情を抱く意味での男。それが、私にとっての宗茂さんだ。
「宗茂さん」
「何だ、なまえ」
「ギン千代さんのこと、好きですか?」
「勿論」
「………私のことは」
真っ直ぐに、逸らさないように意識しながら零すと宗茂さんも同じように私を見詰める。それが何処か驚いたようにも見えて、何だか珍しいなと思った。
「好きだ」
「…その好きって言うのは」
「なら、なまえの期待する好きは?」
「それは――…やっぱり狡いです、宗茂さん」
「狡くはないだろう」
どうしてそこで、聞けなくなるかな。
20111029