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少し話がしたいとギン千代さんに告げられ、一旦仕事を中断することになった。船下りはいつの間にやら宴会に。ほろ酔い気味の人々の輪から少し離れた場所で、私とギン千代さんはその背を眺める。

何時でも中心にいて、人を惹きつける空気を纏っている宗茂さん。しみじみとした様子で見詰めているギン千代さんは、何を思っているのだろう。


「なまえ、お前は」


声を掛けられて以降まったく開かなかった口が私を呼ぶ。驚いて横を向くと、凛々しい瞳は相変わらず宗茂さんを映していた。


「…はい」
「宗茂が、嫌にならないか?」
「え?」


単純にびっくりしたから、そう。私の返答を聞いたギン千代さんは「いや、今のはな。そうだな、つまり…」と腕を組んで考える。ついに私を捉えた眼差しは、真っ直ぐだ。


「私も別段、あいつを嫌っているわけではない。…前にも言ったが」
「はい」
「だから、宗茂の性格の良し悪しではないのだが」


息を吸う。
言葉を待ちながら表情を窺ってみると、ギン千代さんはとても困惑しているようだった。あまり、他人にしたことがない話なのかもしれない。


「私は、今より幼い頃から城主としての誇りを学んできた」
「…誇り、ですか」
「ああ。私は女である前に、父上の後に家を守る城主。まあだからといって、女としての義務を全うする人間を悪しとは思わぬが」
「はあ」
「それがどうだ。宗茂と過ごしていれば嫌でも自分が女であると知らされる」
「…ギン千代さんは」
「そうだな」


女性、ですよね。尋ねる前に返されてしまい言葉を失う。私はギン千代さんのように自分が女だとか、男にも引けを取らないように生きなくちゃとか、そんな風に考えたことはない。私は女だ。そんなの物心がついたときから当たり前だった。


「お前は、怖くはならないか?」
「怖い?」
「女として見られること、自分が女だと意識することが」
「……すみません。よく、わからないです」
「そうか」


そう呟くと、ギン千代さんは宗茂さんに視線を戻す。女として見られることが怖いと言うギン千代さん。だけど、私は。


「………私は、見られたいと思います。女だって、思われたい」
「…そうか」


宗茂さんにそう思ってもらえていたら、嬉しいんだ。



20111029

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