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箒を動かしていた手を止めて、顔を上げる。目に映るのは出雲大社、私がこの時代に落ちてきた日に阿国さん曰く何か反応を見せたらしいお社。例えばこのお社が私を導いたんだとしたら、再び変化が起こったときに帰れる可能性が高いということだ。どうやるのかは見当もつかないけど。


「…帰る、か」


見ていても何もなし、ずっと神様に奉仕している阿国さんもこれといった兆候を感じ取っていないんだから、その日はまだ先なんだろう。


「宗茂さん、まだかなあ」


阿国さんに櫛を見せた日、宗茂さんに櫛を贈るのは嫌と言われたことを話したら、「宗茂様は何考えてはるんかね」なんてからからと笑いながら阿国さんは零していた。笑う理由がわからなくてただ首を傾げる私に阿国さんは「人様に櫛を贈るんは二つ意味があるんよ」とだけ言って、相変わらずにこやかに笑うのだった。正反対の二つの意味。その一つを気にして、私が欲しがっているのを知っても贈らなかったのだろうと。


「…正反対って何だろう」


懐から櫛を取り出して考える。今でも状況に合わせた贈り物はあるけど、櫛に関しては聞いたことがない。宗茂さんに聞いてみようか、教えてもらえるかはわからないけど。


「………声、聞きたい」


携帯電話なんてないし。私が二つ持っていたとしても繋がらないし、当たり前に使っていたものはあの時代だから便利なんだよね。

手紙、も。
私の字を宗茂さんが読めるとは思えないし、私も直次さんに見せてもらった宗茂さん直筆の文字は読めなかった。そんな些細なところで、違いを感じてしまう。


「掃除やんな、いっ…!?」


気合いを入れるべく箒を握りなおそうとした矢先、すごい力に引かれて身体が傾く。手から離れた箒が地面に倒れる姿がやけにスローに見えた。痛い。痛くて、それから苦しい。呻き声を搾り出すと「何やってる!」と怒鳴るような焦るような男の人の、聞き覚えのある――清正さんの、声。


「………むねしげさん?」
「ああ。ただいま、なまえ」


あ、心臓が煩い。



20111017

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