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「やあ、宗茂様にもろたん?」
「もらったと言いますか、自分で買った?…それも違うような…」


出雲大社にお世話になる間に任された掃除。それを終えると阿国さんに手招きされ、今に至る。

お茶に誘われたものだから気を抜いていた、正直。宗茂さんが早く顔を見せてくれるといいね、なんて話はよくしていたけど、まさか櫛に突っ込まれるとは。


「せやからじぃっと見てたんやねえ。そこまで会いたい人なんや」
「気付いてたんですかっ!?」
「なんや髪梳かしてるな思てたら、急に迷子の子みたくなるんやもの。なまえちゃんといえば宗茂様。違う?」
「……そう繋げられるのも、なんか。家族からもらったものかもしれませんよ?」
「この作りは見たとこあるもの。うちにもあるはずや、同じ職人が作った櫛」
「……はあ」


私といえば宗茂さん。
まるで常日頃から宗茂さんのことしか考えてないみたいじゃないか。そう思いつつ、私と宗茂さんが一緒にいることが当たり前、と思われているようで少し嬉しくなった。うん、これじゃあ阿国さんに言われても仕方ないな。恥ずかしいやら情けないやら。


「…あ。阿国さん」
「はいな」
「大阪で会った時、宗茂さんと出会わすために神様が私を寄越したんじゃ、って言ってましたよね?」
「随分前のことやねえ。…言いましたよ。ほんで?」
「えっと。どうしてそう、思ったんですか?」
「うちはね、なまえちゃん。現世に意味のないことなんてきっとない思うてて。せやからなまえちゃんがどうしようもなく宗茂様に惹かれるんも、きっと理由があるはずや思うてしまうんどす」


「お返しします」の声と共に差し出された櫛。阿国さんの言葉を反芻しながら受け取って、握り締める。確かに私を最初に見つけて、助けてくれたのは宗茂さん。その後には清正さんや島さん、石田さん…もまあ、助けてくれた。

だけど私が目を奪われるのは宗茂さんだ。宗茂さんには他の人にも抱いている感謝と、それから。他の人には抱いていない、好意がある。恋愛感情と言うべき好意。何で、宗茂さんなんだろう。


「もとの時代に戻ったとき宗茂様に巡り会ったら…それこそ、夢みたいな話やんなあ」


優しく綻ぶ表情に、その言葉が実現するような錯覚を、覚えた。



20111016

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