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自分の頭に手を置いて、宗茂さんを思い出す。「何時戻るかはわからないが、戻ったら迎えにこよう」そう微笑みながら告げた宗茂さんは、何処へ行ったのだろうか。

阿国さんも詳しくは教えてくれないし、ただひたすら記憶を探りながらそれらしいものを見付けるしかない。きっと授業で習っているはずだから。


「なまえちゃん、頭痛い?」
「え?あ、いえ…」
「何や。宗茂様に撫でてもろたこと思い出してたん?可愛らしいこと、嬉しかったんやねえ」
「……まあ、そうです、ね…」


頭を撫でられる以外のことも経験しているのに、何故かとても緊張した。見詰める私に何を思ったのか「大丈夫だ」と繰り返し零していた宗茂さん。ここに落ちてどれくらいの時間が流れたのかはわからないけど、こんなに長い間宗茂さんと離れていたことがないから落ち着かない。

歩いていれば見付けられた城とは違うんだ。今いるのは出雲だし、本人が何処に行ったかもわからないし。


「…宗茂様は不思議なお方や」
「…不思議?」
「勧進のために色んな国を歩いてまわったんやけど、そん時に柳川にも行く機会があって。暮らしたはる皆さん、ええ顔したはったんよ。…なんやろね、なまえちゃんも安心しきりで、外見だけが素敵な方やないんやねえ」


しみじみと吐き出された言葉はごく自然と私の中に溶け込んでいく。

私が褒められたわけではないのに、何だかすごく嬉しい。そういえば散歩だと城下に連れていかれた時も、町の人は笑っていた。一人で買い物に出たときには「殿様は息災か」って聞かれたし、私よりも宗茂さんを知っている人達だ。私よりもずっと、宗茂さんが好きなんだろう。


「ギン千代さんに聞いてみたくなりました」
「宗茂様のこと?」
「はい」
「…帰りたいけど帰りたくない?なまえちゃん」
「……はい」
「そう。寂しいもんなあ、どっちになるにしても」


阿国さんが私の頭を撫でる。宗茂様にはなれんけど、そう言って少し意地悪く微笑んだ阿国さんに、何を答えようか困ってしまった。


「宗茂様には元気に帰ってきてもろて、なまえちゃんの頭撫でてもらわなね」
「…そうですね」
「死なん言うたはったんや。ちゃんと迎えに来てくれるよ、宗茂様は」
「ですね」


懐の櫛を強く握る。

死なない。告げた姿が、頭を過ぎった。



20111012

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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