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話し合いといっても、暫く私を阿国さんに預けるというだけの話で。別にそう長い時間を取る内容ではないと、思う。そうする詳しい理由は知らない。城を空ける用とだけしか言われていないけど、阿国さんは知っているみたいだ。


(仕方ないけど、うん。…仕方ないよ)


私はこの時代の人間じゃないんだ。時計がなければ時間もわからないし、日が落ちて暗くなってしまってからの過ごし方だって知らない。電気の偉大さをここで痛感しているくらいだ。

宗茂さんと阿国さんが姿を消して、どれくらい経ったのか。長く感じるのは、色々な不安が浮かんでは停滞しているからだろうか。それにしても私はただの客人であって宗茂さんの特別な存在ではないから、思い上がりも甚だしい。


「………寂しいなあ」


一人暮らしではあったけど、友達と話したり親に電話をしてみたりと寂しくなることはなかった。

ここでの私には、友達と呼べる人がいない。静まり返った境内だからかそんなことを強く意識してしまう。

もしも、だ。もしも。
帰る術が見つからなくて、私が生まれ育った時代の私は死んだことになっていたりしたら。二度と家族や友達に会えないとしたら。レポートだって終わってないし、卒業だってしてない。結婚もしてないよ。帰れないなんて、嫌だ。


「なまえちゃん」


優しい声が自然と流れ込んできて私は導かれるように振り向く。阿国さんと、宗茂さんだ。話し合いは終わったのかな。宗茂さんに視線を送るととても穏やかな、労るような顔をされてしまった。


「寂しそうやね」
「…えっと」
「恋しくなったか?」
「……はい」
「正直だ。…なまえ」
「え?…はい」


手招く宗茂さんに首を傾げると阿国さんが笑いだす。こっちへ来い、という意図で。行ったら何をされるのかは何となくわかっているけど、いい。


「感傷的になることもある。なまえ、一度柳川に戻って荷物を纏めるか」
「荷物と呼べるものは…」
「元々着ていたものがあるだろう。俺がいない間に帰ることが出来るかもしれないしな、備えておくに越したことはない」
「…出来るんでしょうか」
「ここは出雲大社だ。それに、霊験あらたかな巫女さんがいるなら何が起こっても不思議はないさ」


落ち着かせるように、一定の間隔で私の背を優しく叩く宗茂さんの手。思わず着物を握り締めると微かな笑い声が聞こえる。


「ありがとうございます、宗茂さん」
「もう何度目かな、なまえに礼を言われるのは」


何度言っても足りないんです。足りないくらい、感謝しているんですから。



20111004

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