36

お見事にございます。
小さく笑みを浮かべ零す相手に微笑みかけ、離れたところで弓を構えるなまえを見る。姿勢だけで簡単に結果は見えているが、まあ俺がとやかく言う必要はないな。なまえの時代は、弓を取ることもないらしい。


「俺はここまでにするか。矢を集めてくれ」
「は」
「…待て。お前はどう思う?」
「は?どう、と申されますと…?」
「あの女人だ」
「ああ。…あのような構えでは、まったく飛ばぬでしょうな」
「俺も同じ意見だ」
「なれば何故殿は、あの者を弓場に連れられたのです」


眉を寄せながらの意見に何を返すべきか浮かばず、ただ苦笑するしかない。

なまえを戦場に連れ行く気はない。死にでもしたらというよりは、足手まとい以外の何物でもないと容易に想像できたからだ。確かにそれなら弓場まで引っ張ってきて、更には弓を引かせてみる必要はなかったな。俺にも明確な理由があるわけじゃなく――…ああ、そうだ。


「立花に召し出された侍女ならば、武芸の一つくらいは身につけろ」
「……は?」
「ギン千代ならばそう言うだろう?立花山や柳川に移って暫くは、自分の侍女を鍛えていたわけだし」
「然らば、長刀も扱いやすいのでは?」
「俺の好みが弓だ、ということにしておいてくれ」
「はあ」


この言い分は俺自身無理矢理だと思うし、相手もそう思ったに違いない。言葉を並べてみたものの結局は「わからない」と言っているに等しいわけだし、納得できたはずもないからな。


「そうです、殿」
「どうした」
「太閤様より書状が。恐らくは…」
「唐入りだろうな」


小田原征伐を終え、日ノ本に一応は安寧をもたらした秀吉様。しかし彼の目的は、もうこの土地にはないらしい。九州を拠点に唐を目指しておられる、とか。そうなれば諸将にも命が下されるに違いない。さて、なまえをどうするか。


「今すぐに、ということはないでしょうが」
「しかし、九州征伐の折よりお考えであったという噂も聞いたが?」
「どなたから」
「さあな」


困惑を乗せた表情につい笑ってしまった。悪いとは思うが、そう零したくもなるさ。なまえを置いてはいくが、何が起こったかを把握できないというのはなかなか。


「…暫く城を開けるが、構わないか?」
「ギン千代様に会いに行かれるのですか?」
「いや。出雲大社に用が出来た」
「出雲大社?」


助けてもらうなら、彼女かな。



20110924

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -