35

危なっかしいと思うのは、守ってやるべきだと感じでいるからだ。その守ってやるべきだという感情は、なまえには俺が必要だと断言できるから発生する。直次に指摘されてからというもの、俺の中でそんなことが何度も繰り返し浮かんでいた。

間違っていない。
なまえを好きだと思う気持ちも、なまえには俺が必要だという考えも。惟信には過保護すぎると苦言を呈されたが、なまえの事情を知るのは俺とギン千代、それから出雲の巫女さんだ。そして、すぐにでも手を伸ばして庇護してやれるのは俺だけ。別に過保護と評するほどでもないだろうに。確かにまあ、殿様が侍女に仕事を教えるのは妙だが。


「なまえ」


鍛練をする俺を眺めるなまえは何処か眩しそうな表情をしている。桶を膝の上に置いて見詰めるものだから、何時か水を零すんじゃないかと思うがそこは留意しているらしい。


「あ、はいっ!どうぞ!」
「ありがとう。慣れたものだな、それなりに仕事が出来るようになってる」
「ありがとうございます」
「いいや」


粗方汗を拭い手拭いを返すとなまえは必死に水面を眺めながらまた浸しはじめた。何かあったかな。それとも単純に、照れたのか。


「どうぞ」
「うん」


例えば。なまえは俺が手拭いを受け取るものと思っているだろうから、手を握ってみたらどうなるか。また真っ赤になって俺の名を呼ぶのかな。だが、その拍子に桶がひっくり返ったら大変か。


「…穏やかだ」
「え?」
「なまえといる時間は、心地いい」
「………はあ」
「なまえはそうでもないか」
「…どうでしょう。……幸せ、ではあります」
「…幸せか」


照れ臭そうに、だがはっきりと告げるなまえに頬が緩む。幸せ。そうだな。確かに俺も、幸せだと思う。


「幸せなら、俺と同じ気持ちなんじゃないか?」
「…穏やか……では。緊張しますし」
「まだするのか」
「寧ろ酷くなりました」
「ほう?」
「……幸せだけど、苦しいです」


なまえの言葉はまるで。だがそうだとすれば、俺には何とも都合のいい話だ。


「……今のは忘れ…なくても、いいんですけど、ですね。忘れてたもらえたらというか、深く気にしないでいただけたら…」


俺が気をつけてみたところで結局は顔を赤くするらしい。しかも今の発言に至っては、俺に意識させようと意図的に行ったように聞こえるな。言ってみて後悔、というより照れたらしいから、なかったことにしようと。

残念ながら、俺はなまえを守ってやりたいし優しくしてやりたいとは思っても、からかわないと誓っているわけじゃない。俺の言動で無限に変わる瞳と表情を、もっと見てみたいと思っているくらいだ。


「それは無理だ」
「えっ、…いや、そこをなんとかして…」
「嫌だ」
「……楽しいですか」
「ああ。なまえが反応してくれる限りは」


そう。大切だ、なまえが。



20110831

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -