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顔を洗うために用意した水。水面に映った自分の顔を見詰めながら、宗茂さんの言葉を思い出す。

私の目が好きだ、綺麗だと言った宗茂さん。普段から意識して見たことなんてないけど、実際意識をしたところでよくわからない。それでも、これが宗茂さんを惹き付けたのならいいのかも、なんて。


「何かあったのか、なまえ」
「いえ、」
「ならよかった」


宗茂さんが私を守ってくれるのは、私が宗茂さんを頼ったからだという。

はじめて宗茂さんに助けられたのは、この時代に落ちた時。避けてほしいと念じたにも拘わらず、宗茂さんは私を受け止めてくれた。次に清正さんに訝しまれた時、私を自分の侍女だと言って庇ってくれた。この柳川まで不安にならないようにと物事を進めてくれたのは、宗茂さんだ。

勿論、宗茂さんだけじゃない。

清正さん、ギン千代さん、石田さんに島さん、阿国さんとおねね様も。沢山の人達が、明らかに怪しい私を助けてくれた。阿国さんとおねね様は最初から好意的だったけど、こうして上手く進んでいるのも宗茂さんのお陰なのだろうか。

私が頼ったという理由だけでここまでしてくれるなんて、宗茂さんは本当に優しくて素敵な人だ。少し意地が悪いところもあるけど、それも不思議と魅力に変わってしまう。直次さんの言うように、気が付いたら惹かれているんだろう。惹かれていると知った頃には、もう好きになってしまっているんだろう。

現に私は、宗茂さんに助けてもらえる瞬間が好きだ。嬉しくて幸せで、恥ずかしい。


「まだ寝ぼけているのかな」
「大丈夫です」
「そうは見えないが」


からかうような笑顔も、好意的な相手に向けられる柔らかい眼差しも。一つに惹かれてしまえば、どんどん宗茂さんに意識を攫われる。そして宗茂さんを、好きになっていくんだと思う。


「宗茂さん」
「うん?」
「宗茂さんは、私が清正さんのお世話になりたいと願えば、連れていってくれるんですか?」
「なまえにとってそれが最善になるなら、今すぐにでも連れていくさ」
「…ありがとうございます」


一度好きだと感じたら、もう嫌いにはなれないんじゃないかと思ってしまう。少なくとも清正さんとギン千代さんはそう見える。悪態を吐きながら、それでも宗茂さんが好きだと。


「宗茂さん」
「今度は?」
「それは嬉しいですけど、私は柳川にいたいです。宗茂さんに、守ってもらいたい」
「それは勿論構わない。なまえが俺を選ぶなら、俺は変わらずなまえを助けるまでだ。…それに」


宗茂さんの視線に苦しさを覚える。この人は多くの人に好かれていて、私もその中の一人で。だけど私の好きは、特別な意味を持ってしまったんだ。


「その方が嬉しいな」
「……はい。私もです」
「ああ。望まれる限りはそうしよう」


好きです、宗茂さん。
伝える日が来るかはわからないけど、とても。



20110830

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