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何を期待したのかと言えば確実に恋愛感情としての好意、なんだろう。ギン千代さんがどうだとか口では言いながら、私は間違いなく宗茂さんに惹かれている。

名前を出すのは宗茂さんへの牽制ではなく自分への牽制だ。常から奥さんのことを考えていれば抑制出来るだろうという、甘い考え。あまり上手く働いてはいない気がするけど。


「目って、…それだけ、ですか?」
「おかしいか?」
「いや…さあ、多分、おかしくは」


今も、この状態が続けばいいとどこかで思っている。流石に一晩中廊下で見詰め合っているわけにはいかないから、せめて少しだけでも。少しでも長く宗茂さんを近くで見ていたいし、私を見ていてもらいたい。


「だがまあ、お前自身の人となりも好きだな」
「…ありがとうございます」
「なまえは?」
「……はい」
「それは答えにならない」


可笑しそうな声と、困ったようにも見える表情。掌の熱が頬に伝わる。私はすごく緊張しているけど、宗茂さんはどうなんだろう。ほとんど表情が変わらないから何を感じているのか全然わからない。弟である直次さん、それからギン千代さんならわかるのかな。

そう思うと、少し苦しい。仕方ないんだけど。


「私も、好きです」
「そうか。それで?」
「……宗茂さんは、今何を考えていますか?」
「特には。強いて言えば、今日は蒸すなとか、なまえの目は思った通り綺麗だとか。そういうことかな」
「私にはわかりません。宗茂さんを見ても、これだけ近くで見ていても」


私の好きは、どう伝わったのだろう。なるべく普通に、それこそ友達に抱くような好意だと思ってもらえるようにしたつもりではある。一人の人としてとても感謝しているし、好きだ。だけど徐々に異性としての好きが、混ざってきている。


「…ギン千代さんなら、わかりますか?」
「どうかな。俺はギン千代ではないから何とも言えない。それに」
「それに?」
「たとえギン千代が判別できたとしても、なまえとギン千代は別人だ。比較する必要がない」
「………」
「それとも、なまえが俺を知りたいと思ってくれているのかな」


胸が苦しくなる笑顔。
どうしよう、どうしよう。私は、この人が。



20110824

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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