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「俺を童と思うか?」
「え?」
「直次に言われた」
「…ああ」


直次曰く、なまえと直次を見る俺は拗ねていたらしい。そして文面は、とにかくなまえを自慢したくて仕方がないように思えたとか。

それなりの年数を過ごした実弟の言うことだ。何より血が繋がっているし、ここにいる家臣やギン千代の言に比べれば信憑性は確かだろう。だいたい「側室にでもなさるおつもりか」とも言われたし、直次以外から見てもなまえに対する俺の態度は何かおかしいということになる。


「…私にはよく」
「わからないか」
「まあ」


夕餉を終え部屋に案内させようとした時、直次はなまえはどうしているのかと聞いてきた。隠し立てする必要もないから俺の部屋で過ごしていると答えたが、返ってきたのは「そこまで常識がないとは思いませんでした」の言葉だ。

そう言われたところでなまえの事情を思えば一人にしておいて問題がないとも言えないし、無理が生じるにしても傍にいる方が安心もできる。こういうとき、殿様という立場はなかなか使えるな。悪用に近いが。


「それと、恋い慕っているようだとも言われた」
「はっ!?それはっ」
「俺がなまえを。…そう見えたかな?」
「ああ、宗茂さんが……ええっ!?」
「どうした?」

あまりにも大袈裟な反応をするからつい笑ってしまう。不快になるかと思えば、なまえの顔はただ赤い。

「……いえ」
「そうか」


好ましい性格をしていると思う。そう思うのだから、当然俺はなまえが好きだ。なまえを好きだと感じる心を否定する必要も、隠しておく必要もない。まあそれが直次の言うような恋い慕うという感情であるかに悩むくらいか。


「あの、宗茂さん」
「ん?」
「……宗茂さんは、どうして私を助けてくれたんですか?」


俺を窺うような瞳。まだ微かに赤の残った頬と相俟って、不思議と艶を感じる。俺の方が丈はあるし、なまえが上目になるのも当然なんだがな。これまでにもあっただろう。


「…どうして、か」


なまえの言葉をすべてではないが零し、考える。理由というものは思いの外単純で、まあそこに至ったのも清正がいたから、かもしれない。


「なまえが俺を頼ったから、かな」
「頼った」
「縋るような瞳で見られては、余程でない限り見捨てることは出来ないさ」
「…そうでしょうか…?」
「ああ。それと」


なまえは俺がいれば安心するようだし、なら俺が見ていてやればいい。俺がいることで不安が拭えるのなら、出来る限り希望に添うようにしてやればいいんだ。なまえが誰か他を望むならすぐにそいつのところに送ってやるのも、俺がしてやれることに違いない。


「好きだからだな」
「え、すっ、好き?」


立ち止まって真正面からなまえを捉える。月明かりだけが頼りだが、やはり大坂で思ったように綺麗だ。


「…なまえ」
「あっ、の!」


髪を払い、覗き込むように顔を寄せるとまた一気に赤く染まるなまえの頬。この様子を楽しむのは、直次の指摘する感情が俺にあるからなんだろうか。


「宗茂さん、近いっ…!」
「見たいから無理だ」
「み、見たい…?」
「お前の目。すごく好きなんだ」
「…目……?」


戸惑う声が、心地いい。



20110823

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