叱責するように響いた名前に驚いて、思わず部屋から顔を覗かせる。

幸村様とくのいち。
くのいちは手に枝を握っており、幸村様は腕を組んで仁王立ちだ。何かあったのかしら、珍しい。幸村様が声を荒げてくのいちを(というより、誰かを)叱り付けるだなんて、嫁いで数ヶ月見たことがない。


「大きな声を出されて。如何なさいましたか、幸村様」
「なまえ…!」
「あっ、なまえ様!助けてくださいよっ!」


揃って私の名を呼ぶと、くのいちは軽やかに私の側までやってくる。まるで盾にでもするように私の背に隠れたくのいち。幸村様は再び名を呼んだ。


「どうしたの?くのいち」
「なまえ様、お身体は大丈夫ですか?」
「ええ、平気よ。少し咳が出るだけだもの。ねえ」
「今日にも薬を持ってくると薬師が言っていた。飲んで、安静にしておくといい」
「ご心配痛み入ります」
「いや。…それでだ、くのいち」


一拍置いてからの声に、くのいちが袖を握ったのがわかる。幸村様は意味もなく叱り付けたり当たり散らすような方ではないと思うから、これにも理由があるはず。私は大人しく聞いていることにしよう。


「枝を折るとは何事だ。あの桜は、なまえも心待ちにしていたものだろう」
「わかってますよ〜だから折ったんだし…」
「くのいち!具合が落ち着いたら共に眺めると約束をしていたのに――」
「だからですってば!なまえ様が心配なのはわかりますけど、毎日様子を見た後に眺めては落ち込んで。いっそお部屋に持って行ったら喜ぶかと思って…」


幸村様も、なまえ様も。
最後のそれは本当に呟く程度のものだったから私にしか聞こえなかったと思うけれど、幸村様は大層驚いていらっしゃる。たとえ枝であれ、室内であれ。二人で眺めたら元気になるだろうというくのいちの気遣いだったわけだ。ああ、幸村様ったら、あっという間に申し訳なさそうなお顔をされて。


「感謝します、くのいち。見せて?…まあ、綺麗な桜だわ。ねえ?幸村様」
「あ、ああ。…だが」
「そうね、黙って折ってはいけないわ。気持ちはとても嬉しいけれど」
「はい。以後気をつけます」
「…私も悪かったな、くのいち」
「なまえ様のことになるとちょっと周りが見えなくなりますよね、幸村様」
「反省しているのか?」


苦々しく眉を寄せる幸村様にくのいちが笑う。

つられて私も笑っていると、幸村様は一人納得がいかないと言うように、溜息を吐かれた。



20110720

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