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つくづく立花宗茂という人は魅力的なのだと思う。

例えば顔、例えば声。
見守るような表情であったり、その間は私以外を映していないと確信できてしまう眼差しだったり。不安に駆られていても宗茂さんの声がすると重しが消えたような、靄が晴れたような感覚に包まれる。そして今は、また新たな宗茂さんが。


「熱心ですね」
「…えっと」


間違いなく私に向けて発された言葉に少し動揺してしまった。宗茂さんを見ていたからというのもあるし、目に映ったその人が何処となく宗茂さんに似ていたから、というのも一つ。

宗茂さんの実の弟である直次さん(高橋さんでは他人行儀だと宗茂さんに指摘された)。彼は、宗茂さんと瓜二つとは言わずとも雰囲気がよく似ている。顔立ちとしては、直次さんの方が可愛いだろうか。


「なまえ殿も、やはり惹かれますか」
「いやっ!…あー…そう、ですね。…惹かれていると、思います」
「いえ、あまり重く受け止めないでください。兄上は昔からそうですから」


うん、直次さんの方が柔らかいかな。幼い、というのか。これで彼にも奥さんがいるというのだから驚きだ。ここにいると、本当に自分が行き遅れみたいで落ち込みそう。この時代の基準でいけば、行き遅れに違いないんだけど。


「昔から?」
「道雪殿に是非にと請われたり、高橋を継ぐ嫡子として多大な期待を背負っていたり。幼い頃から才に恵まれて、その上、人当たりもいい。…義姉上も兄上を好いていらっしゃる。不思議と、惹かれてしまう人なのです」


そう言って宗茂さんに視線を送る直次さんの瞳は優しい。恐らく直次さんも、宗茂さんに惹かれている一人なんだろう。

剣を振るう姿。私は見たことのない、そして今後も見ることはないだろう戦場での宗茂さんは、この鍛練よりも鋭い表情を浮かべているんだろうか。


「…兄上は、何時でも冷静なんです」
「え?」
「私でも計りかねる時がある。例えば、今回の文も」


そう言って懐から折り畳んだ紙を取り出した直次さん。受け取り広げると何やら文字が。恐らくは宗茂さんが直次さんに送った文、なんだろうけど――…読めない。


「なまえ殿の自慢をしたかったようでして。長々と貴女のことが書かれていました」
「……私の…?」
「なまえ殿を私に見せたかったのでしょう」
「宗茂さんが、ですか?」
「ええ。どうやら兄上は、随分となまえ殿を好いていらっしゃるようです」


そう言って微笑む直次さんの表情は、ふと宗茂さんを思いださせる。



20110821

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