27

「清正は帰ったか」
「はい」
「挨拶もなしに帰るなんて冷たいな」
「起こそうと思ったんですけど、清正さんが気にするなって」


日が落ちてから目覚めた宗茂さんは、相変わらず寝転んだまま私と会話を続ける。そろそろ足が痺れてきたんだけど、言ったら起きてくれるだろうか、宗茂さん。


「…部屋も片付いてる」
「人が来て、掃除して行きましたよ」
「ずっとこの状態だったのか」


清正さんが出ていって暫く、部屋の掃除をしにきた侍女に私は思いっ切り睨まれた。宗茂さんは大層人気なようだ。

あの人が個人的に宗茂さんに好意を持っているのもあるのかも知れないけど、どこのとも知れない女が膝枕なんてしてたら変だよね。その女人は、と尋ねる声にも「新しい側仕えだ」とその他の質問を受け流していたし。これまでずっと宗茂さんに尽くしてきた人達にはさぞかし怪しく、気分の悪い存在だろう。


「明日、城下に出てみるか?」
「え?」
「大坂ほど栄えてはいないが。まあ何、お前に見てほしいんだ」
「私に、」
「ああ、船遊びもいいな」
「船遊び?」
「納涼かな。ただ言葉を交わしたり、軽く酒を飲んだり」
「…お酒が飲みたいだけ、ではないですよね?」


宗茂さんは笑ってる。
飲みたいだけだと返されたら落ち込むけど、こうやって笑顔で返されるのも微妙だ。的外れな私の発言に笑っているのか図星を指されて笑っているのかわからない。


「なまえがどんな顔をするのか見てみたい」
「はあ」
「具体的には表情…色、かな」
「色?」
「お前を眺めるのは飽きないし」
「…ありがとう、ございます」
「そう硬くなるな」


掌が頬を滑って、涙を拭うように親指が目の下をなぞる。あまりに優しく触れるものだから、硬くなるなと言いながらわざとそうなるように仕向けているんじゃないかと疑ってしまった。


「なまえ、部屋なんだが」
「部屋?あ、はい、何でしょう?」
「俺と一緒で構わないな」
「はっ、はいっ!?」


真っ先に自分の耳を疑った。何を言っているのだろう、この人。正気だろうか。


「宗茂さんと私がですか!?」
「ああ」
「私が帰れなかったらどうするんですか!」
「どうもしない。そのまま過ごすだけだろう」
「わ、私はギン千代さんじゃないです!」
「知ってる。どうやったら間違えるんだ」


何で笑ってるのこの人。感覚が違うとは思っていたけど、これは生まれ育った時代が違うから、だけが原因じゃない。宗茂さんの感覚が私と掛け離れてるんだ、恐らく。


「なまえは俺以外の人間を知らないし、俺がこうして近くに置いていれば相当気に入ってると思うだろうさ」
「何ですかそれ!寝たり着替えたり、そういうのも全部一緒に…!?」
「一組の布団で寝るわけでもなし。お前が着替えるときくらいは出ていくが、俺は別に。なまえに着付けてもらっても構わない」
「着付けなんて出来ませんよ!」
「教えてやる。試しに明日やってもらおうか」
「へっ、部屋!部屋は別に…!」
「嫌だ」



何で。
これから先、眠れない日々が続くのだろうか。



20110727

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