25

本当は泊まらせるつもりだったらしいギン千代さんは「お前とは充分すぎるくらい過ごした」と呆れて吐き出し、住まいである宮永館に向かってしまった。

宗茂さんは残念がるかと思えばそうでもなく、便乗して領地に帰ろうとした清正さんを無理矢理引き止め、今は私を後ろに乗せ馬を歩かせている。降りる時は清正さんが手を貸してくれる約束だ。

ありがたいけど、想像以上に怖くて着いたところで宗茂さんから手を離せるかが微妙、なんだよね。


「どうだ、なかなか楽しいだろう?」
「いや、こわっ…速度上げないでくださいっ!」
「気のせいだ」


軽やかに笑いながら零す宗茂さんは、たまに「走らせてみるか?」なんてことを言う。思い切り首を横に振るとまた楽しそうに声を上げるんだ、これが。意地が悪い。


「怖がらせるなよ。前は俺に泣かせるなとか言ってなかったか?」
「泣かせたいわけじゃないさ。…ほら、もっと抱き着いても平気だ、なまえ」
「動いたらずり落ちそうですっ…!」
「ははっ」
「……笑うなよ」


宗茂さんは清正さんが冷めた視線を送ってもまったく気にしない。つい、少しは私の状態を見て気にしてくれてもいいんじゃないか、と思ってしまう。


「気分がいいのはわかるが、それになまえを巻き込んでやるな」
「気分いいと人を虐めるんですか宗茂さん…っ…!」
「大人しくしていないと舌を噛むぞ。慣れてないだろう、なまえ」
「もう噛んでる」
「それはすまなかった。言うのが遅れたな」


痛い、すごく痛い。容赦なく噛んでしまったから涙が出るくらい痛い。当然口を開いた自分に非があるんだけど、笑い混じりに謝罪をされては何だか宗茂さんを怨みたくなってしまう。船酔いの時みたいに本格的に不味いとなれば心配してくれるけど、身体への影響がそれ程でもなければ面白がる口なわけだ、宗茂さん。覚えておこう。


「なまえも柳川城の人間か」
「……よろしくお願いします」
「輿入れでもしたみたいだな、まるで」
「こしいっ…うぐっ…!」
「また噛んだな」
「お前が余計なことを言うからだろ、馬鹿」


鼓動が速くなった。この密着状態では気付かれてしまいそうだけど、距離を取ると落ちそうで怖い。仕方がないのでこのままで、ああもう、気付いていてもいいので何も言わないでくださいね、宗茂さん。


「なまえは俺が好きか」
「はいっ…!?」
「俺はなまえが好きだ」
「それも、あれですよね?誰にでも…って」
「いつの間にお前の信頼を失ったかな」


愉快そうな笑い声。溜息を吐く清正さんはこれっぽっちも笑っていない。私も当然、笑えない。


「なまえ。宗茂といる気ならそいつの言動にいちいち照れるな。無駄だぞ」
「……はい」
「全てがそうとは限らないだろう?それだからお前は進歩がないんだろうな、清正」
「余計な世話だ」


ますます、清正さんの表情が歪んだ。



20110723

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