24

「……痛くは?」
「触ってみるか?」
「え?いや、…えっと」
「手を貸せ」


ギン千代さんとの話を終え帯を整えてもらっていたところ、確認もなしに宗茂さんが顔を覗かせたのが少し前。ギリギリ前を合わせていたから見られはしなかったけど、声を荒げたのは私ではなくギン千代さんだった。

何食わぬ顔で「まだ着替えていたか」と吐き出す宗茂さんの頬を思い切り引っ叩き「さっさと出ていけ!」と怒鳴ったギン千代さん。私の着物が元の状態になると、廊下に座り込んでいたらしい宗茂さんに「今後のことについて話し合え」と告げて出て行ってしまった。

話し合う、といっても。
宗茂さんには柳川に行きたいと伝えてあるから特にないと、思うんだけど(因みに清正さんは先に部屋に戻ったらしい)。


「どうだ?」
「どうって。…少し熱を持っている、ような?」
「鬼のような力だったからな」
「……それ、笑いながら言うことですか?」


頬とはいえいつまでも触れているのは躊躇われ、だったら掴まれている手を放してくださいと言えばいいのにそれも出来ない。

もう少し、もう少しだけ。宗茂さんが放してくれないから仕方ない。そんな言い訳をしているんだ、私は。


「ギン千代とは何を話した?」
「宗茂さんと柳川に行く覚悟はあるかって。…別居しているんですね」
「ああ」
「初耳でした」
「言っていないしな。言う必要を特に感じなかった、というのもある」


微笑みながらあっさりと言ってのける宗茂さんにとって、私とは何なのか。出会ってそう経ってもいないのにこんなことを考える方がどうかしているけど。


「…だが、そうだな。そんなに寂しそうな顔をされるなら、今後はなるべく話すとしよう」
「さっ、さみしそう、ですか」
「それで?俺と二人だと聞いて嫌になったか?」
「嫌では。ギン千代さんのことを知らない時に、出た話ですし」
「答えは変わらないか」
「………はい」
「よし」


満足そうな響きに、つい私まで嬉しくなってくる。私ばかりが宗茂さんの側にいたいわけじゃなくて、宗茂さんも私といたいと思ってくれているんだろうか。少しでも、楽しいと思ってくれているんだろうか。


「着いたら何をしようか。一日どころかずっと綺麗な景色が広がっているんだ、あそこは」
「…好きですか?」
「ああ」
「楽しみです」
「期待して損はない」


普段の涼しげな笑顔ではなく何だか子供っぽい笑顔。自然とそうなるくらい、柳川という土地が大切なんだ。宗茂さんが大切にしている場所ならすごく素敵なんだろう。根拠はないけど、そう思う。


「なまえ、馬には乗れるか?」
「……いえ」
「なら、安全とは言い難いが二人で乗るか」
「ええっ!?」
「何、俺に掴まっていれば間違いはない」
「私が宗茂さんに掴まるんですか!?どこにっ、」
「腰にでも手を回してくれたら。他にどこがある」
「いや、そうですね、はい…わかり、ました…」



本当に、宗茂さんにとっての私は何だろう。私にとっての宗茂さんは。

私にとっての宗茂さんは恩人で、それから。



20110722

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