「ほら」
「…はい」
差し出された盃にお酒を注ぐと、宗茂さんはいとも簡単に飲み干してしまう。盃自体そんなに大きくはないにせよもう半分は飲んでるよ。気分悪くならないのかな。
「あんまり飲まなかったんですか?」
「そうでもない」
「じゃあ強いんですね」
「どうだろうな。限度を弁えているだけかもしれない」
最早作業だ。差し出されたらひたすらお酒を注いで、何というか、わんこそばを思い出す。
「なくなりそうです」
「そうか。そしたらまあ、風景を楽しめばいい」
「…戻らないんですか?」
「なまえとこうしていたいかな」
「………はあ」
酔っているんだろうか、素面だろうか。宗茂さんは素面でも平気で恥ずかしいことを言うから、素面かもしれない。酔っても顔に出ないタイプの可能性もあるけど私には確認する術がないからわからないや。あ、何か叫び声が聞こえる。
「盛り上がってるな、随分」
「誰でしょう。この大きな声」
「正則だろうな」
「……私に似てる?」
「ははっ。思い出すだけで、似てはいない。なまえの方が可愛いし好きだな、俺は」
「そっ、そうですか」
「それに違う時代の人間なら食い違って当然だ。撤回しておこう」
表情が何だか穏やかに見える。やっぱり酔ってるな、酔ってるに違いない。
何時もは涼しげな瞳がとろんとしているし、口調も何処かゆったりしている気がする。これは早々に切り上げた方が…でも、宗茂さんの部屋って何処だろう。客人用の部屋ってあるのかな。誰かの屋敷に泊まるとか、どうしよう、よくわからない。
「………」
「宗茂さん、大丈夫ですか?」
「なまえ」
「はい」
「綺麗だな」
「はっ…?」
盃を持っていない大きな手が頬に触れる。顔に、頬にかかった髪を指で避けると、そのまま宗茂さんは動きを止めて私を見る。見詰めて、いる。
顔を寄せることもなく、手を離し距離を取ることもなく。
月明かりを受けた宗茂さんの顔は息を呑むほど整っていて、綺麗という言葉は宗茂さんにこそ相応しいんじゃないかと思った。宗茂さんが、喜ばないにしても。
「………なっ、なにが」
「うん。外に出て正解だった。お前を連れて来たのもな」
「あの、わかるように…」
それだけ言うと、離れる手。頬に感じる熱は私のものか、宗茂さんのものか。
考えていたら、ますます熱くなった気がした。
20110714