17

ああ、いい香りがする。宴ってどんな食事が出るんだろうなあ。そんな現実逃避を試みたところで、不思議そうな島さんと仏頂面の石田さんが消えるわけではない。そして高確率で助けてくれる宗茂さんが現れるわけでも、ない。


「………えっと」
「装束はとてもじゃないが武人には見えませんでしたし、忍にしちゃあ、なんと言いますか」
「屑だろうな」
「殿」


当たり前のように吐き出す石田さんを咎める島さん。人に対して屑とは何だと思うけど、今は腹を立てている場合じゃない。私はこの時代のことは教科書程度しか知らないし、私の発言によっては宗茂さんにも妙な疑いがかかってしまう(既に変人扱はされてるけど)のだ。どうするか。


「わ、私、旅芸人で!ふらふらと歩いていたら宗茂さんに出会いまして、それで…」
「芸人?」


まるで私の発言を叩き落とすような石田さんの声。島さんはというと、笑っている。旅芸人がこの時代にいるのかは、ああでも阿国さんって舞を披露して勧進を集めてるって言ってなかったっけ。そう、そんな感じ、ということに。


「ほほう?でしたら、一つ見せていただきたいですなあ。ね?殿」
「今日は宴だ、余興としても都合がいいだろう」
「いやでも、ほら。足を痛めましたので…ちょっと」
「ああ、そういえばそうでした」


今気がついたと言わんばかりに笑ってみせる島さんだけど、絶対に嘘だってわかってるよね。


「成る程ね。長期の戦で疲弊している兵を景気付けようと、遠路はるばるやって来たってわけですかい」
「ま、まあ、そんなところです」
「だが来てみたら戦は終結。偶然出会った宗茂殿に見初められ、今に至ると」
「見初められ…は、違う気が」


だそうですよ、殿。意地悪そうに笑いながら石田さんに告げる島さんは、やっぱり私をからかっているようだ。疑われるよりは、ずっといいけど。


「おや、宗茂殿直々に誘われていたじゃないですか」
「それはまあ…」
「そんなものだろうあの男は。誰彼構わず軽口を叩く」


溜息とともに落ちた言葉に、ついムッとしてしまう。私が宗茂さんの何を知っているわけではないけど、少なくとも彼の優しさは本物だ。

だって、宗茂さんは見ず知らずの私を庇ってくれた。それに今もずっと気遣ってくれている。石田さんの方が付き合いは長いだろうし人によって評価が変わることも重々承知だけど、それでも、気分はよくない。


「なまえとか言ったか。何も俺は、奴の人格を否定したわけではない。宗茂は優れた人間だ。分別があり勇猛、剛勇鎮西一と評されてもいるしな」
「…な、何ですか、急に」
「多少の難はあれ、俺とて奴を扱き下ろそうとは思わん。敵を見るような目は止せ」
「私はそんな目」
「ははっ、やはり困った殿方ですよ、宗茂殿は」



出会ったばかりのなまえさんでさえ虜!あやかりたいものですな。

にやりと笑う島さんに、微かに口許を緩めた石田さん。いやだから、お二人が考えているような気持ちではなくてですね、…あれ?


「笑った」
「は?」


島さんの笑い声が、響く。



20110706

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