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感じる体温。背や腿、それから腕に、体の片側。

少し前にも経験したし、宗茂さんはそうして城に戻ると言ったんだからおかしくはない。勿論、宗茂さんにとっては。

私にとっては何というか、心臓が大変だ。二度目で慣れるわけがないし、数日経っても宗茂さんの顔に声、全てに慣れない。更には阿国さんの情報によりこれが夢ではないとわかってしまったから、改めて意識してしまう。ほぼ全身に感じているこれは、本物だと。


「辛くないか?なまえ」
「…宗茂さんは」
「お前一人抱えたくらいで潰れていたら、情けないだろう」


武人だぞ。そう言って笑う姿も声も、本物。宗茂さんは私が作り上げた夢の世界の人物ではなく、生きている人間で。


「顔が赤い」
「あ、いえ…はい」
「慣れないな、なかなか」
「そう簡単に慣れる顔立ちではない、ですよ」
「そうなのか」
「そうなんです」


そしたらなまえちゃん、宗茂様から離れたらあきませんよ。

少しの間しか言葉を交わさなかったけど、見た中で一番綺麗に(妖艶でもあった)微笑んだ阿国さんは勧進にと茶屋を後にした。舞うのに打って付けの場所を探すらしい。

私は来た道を戻るだけ。
それだけなのに新しく見えるのは、これを現実と受け止めはじめたからなんだろうか。というか、私はどこで倒れたんだろう。外で急にとか。発見されていない可能性もあるよね、家だったら特に。一人暮らしだし親が来る予定もない、つまり誰にも、気付かれない。帰れるのかな、同じだけ時間が経っているなら、誰か心配しているかもしれない。レポートのことで夜に電話するって友達言ってたし、ああ、どうしよう。


「なまえ」
「…はい」
「まあ、色々と考えたくはなるだろうが、不安そうな顔は困る。どうしていいかわからない」
「あ…ごめんなさい」
「いいや。これも俺の勝手な言い分だしな。だからといって、俺がいないところでその顔をされても困るが」
「そうですか…?」
「心配だ、純粋に」
「心配、」


少なくとも、宗茂さんが提案してくれた柳川行きを決行すれば宗茂さんとは離れずに済む。清正さんに石田さん、島さんにおねね様。言葉を交わした人は大阪の方が多いけど、私の事情を知っているのは宗茂さんだけ。それに私は一応、宗茂さんの侍女で通っているし。


「…宗茂さん」
「どうした?」
「私、柳川に行きたいです。宗茂さんと一緒だと安心できます」
「大胆だな」
「はいっ!?…っ、そ、そういう意味じゃなくて!事情を知ってるのも親しい方なのも、宗茂さんくらいしか、」
「わかっているさ。そう慌てるな」


楽しそうに笑う宗茂さん。これはからかわれた、完全に。励ますためだったのかもしれないけど、それにしたってもっと何か。いや、こうして色々気遣ってもらえるだけでありがたいんだけどさ。


「しかし、さっき承諾しただろう。何故聞いた?」
「あれ、冗談じゃないんですか?」
「まさか。本気だったさ、俺は」
「………そう、でしたか」


生きている人間、妄想の産物ではないと思うだけで緊張が何倍にも膨れ上がった気がする。

心臓が煩い。気付かれて、しまいそうだ。



「宗茂!!」


少し体を離そうか、それとも下ろしてもらおうか。どちらを選ぶか悩んでいると、怒気に溢れた声が宗茂さんを呼ぶ。はじめて聞く声、女性の、声だ。


「貴様何処へ行っていた!だいたい何時も勝手に行動しすぎなのだ!私でなくとも誰かに一言…!」


あまりの迫力からかはたまた違う感情からか。恐る恐る視界に入れた女性は、相当怒っているらしい。



20110702

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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