13

ちょっと整理しよう。
ニコニコと実に楽しそうに笑っている巫女、阿国さん。彼女は私がこの時代の人間ではないと言う。確かにそうだ。私は空から降ってきて、とんでも美形な立花宗茂さんに助けてもらい、今この場にいる。


「ち、ちょっと待って。どういうことですか、阿国さん」
「そんなんうちがわかるわけ。せやけど、事実やろ?」
「それは、まあ…そうですけど」


学校帰りだったのか、既に帰り着いていたのか。落ちる直前は曖昧で覚えていないけど、世界がまるで違うことだけは確かだ。城、城下町、鎧、戦、着物。まさに大河ドラマ。豊臣秀吉、加藤清正、石田三成。授業で耳にしたことのある人物。戦国時代だよね。私がいるのは戦国時代、らしい。


「…大丈夫か?」
「はい、大丈夫…です」


夢だと思ったのは、たぶん宗茂さんも原因の一つで。

戦国時代や武将と言われて思い出すのは髷。だけど宗茂さんは現代にいてもおかしくない髪型をしている。石田さんに清正さんだって。茶髪に銀髪だし、変だ。城下にいる人は髷だけど…この世界では、名のある人は現代的なんだろうか。


「ん?」
「いっ、いいえ!」


宗茂さんを見詰めながら考えることではなかった。いやまあ、恥ずかしいと感じているのは私だけだと思うけど。

この顔と声と(ちょっと難はあるけど)性格なら引く手数多に決まってる。自分が動かなくても女の人からやってくる、確実に。いやいや、そうじゃなくて。


「夢じゃ、ないんですか?」
「ちゃいます。神様が言うたはったんや、間違いおまへん」
「でも」
「なまえちゃん、そないなことばっか言うてたら罰当たるよ」
「罰っ!?」


脅すでもなく、真剣な表情で。そうだ、阿国さんは巫女。巫女は神様に仕える存在なんだから、神様のお告げを嘘だ何だと否定されたら気分はよくないよね。都合のいいときに縋る私とは違って、純粋に神様を信仰してるんだし。


「巫女さん、なまえは怖がりなんだ」
「え?いや、」
「やあ、そうなん?可愛らしいこと。…せやかて、神様を蔑ろにするんは許せません」
「…ごめんなさい」
「はい。ちゃんと謝れるんはええことや」


真剣だった顔が綻んで、本当に花が咲くように笑う阿国さん。なんて可愛い人だろう。なんて、一つ一つの表情が魅力的な人だろう。


「ほんでや、なまえちゃん」
「…はい」
「うちと一緒に、出雲においやす」
「……は?いずも?」
「はいな」


輝く笑顔。何も間違ったことは言っていないと語っている。えっと。


「なまえちゃん、戦ったことある?」
「い、いいえ」
「せやったら、帰る方法がわかるまで出雲におった方が安全やよって」
「…はあ…」


どう答えるべきかわからず宗茂さんを見てみるけど、宗茂さんは特別助けてくれそうに、ない。ただ私を見て、そう。見て。


「……あの」
「お前が決めるといい。戦う術のないお前なら、確かに大社に世話になる方が安全だ」
「それは、はい…」
「供は付けるさ。女二人では何に襲われるかわかったものじゃないしな」


表情を変えることなく、淡々と言葉を紡いでいく宗茂さん。冷たい、わけじゃないけど、少しだけ悲しくなる。ちょっと優しくしてもらっただけで舞い上がっていた自分も問題だけど。勝手な言い分だって、わかってるけど。


「…悪いね、巫女さん」
「あら、何が?」
「どうやらなまえは、俺と離れたくないらしい。出雲に行くのは嫌だそうだ」
「え。…宗茂、さん?」


ちらりと宗茂さんを見た阿国さんは、私に視線を戻すと悪戯っぽく微笑んでみせる。「こっち来て、いっちゃん最初に会うた人やしね。そら離れたないわなあ」、その言葉もあってか微かに頬が熱を帯びた気が。確かに、宗茂さんと一緒がいいとは思ったけど。


「…宗茂さんが最初って、どうして?」
「なまえちゃんの宗茂様を見る目、この人しか頼れん言う感じで可愛らしかったからやろか」
「か、かわいらしい、ですか」
「うちと話してる間も、不安になったらすぐ宗茂様見はるし」
「ああ、だからよく視線を感じるのか。目も合うしな」
「い、いやっ、それはあのー…」


何となく。何となくだけど、宗茂さんは常に私の味方でいてくれる気がして。宗茂さんを見ていると安心するし、でもただ、それだけで。


「宗茂様と出会わすため、神様がなまえちゃんを寄越したんかもしれんねぇ」
「まさか!ね、ねぇ?宗茂さん」
「さあ?…で、なまえ。俺と離れたくないなら、一緒に柳川に来てくれるな?」
「えっ!?」


これは美形すぎることへの緊張で、つまり芸能人への好意と似たようなもので。


「……はい」


恋じゃない、恋じゃ。



20110624

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