11

デートじゃない、そんなことわかっているのに、それっぽいと思っただけでこうだ。宗茂さんは少しも動揺しているようには見えなくて、私一人いっぱいいっぱいなのが馬鹿みたいというか、うん。


「妙な顔をしなくても、俺はよく似合っていると思うが」
「えっ…、あ、いや。着物、ではなく。…でも、ありがとうございます」
「まあ、俺がなまえに合うものを選んだんだから当然だな」


宗茂さん、着せ替え人形で遊ぶみたいに色々合わせてただけだったような。島さんまで便乗するから、二人しておねね様に怒られてたし。反省しているようには見えなかったけど。

真剣にやってくれたのは清正さんくらいか。まあその清正さんも大好きなおねね様の頼みだからか、真剣すぎて却って対応に困ったんだよね。ありがたかったんだけども。


「あ、小物売ってる」
「そんなに珍しいか?」
「はい!香袋ってあんまり見たことないし…櫛だ」
「何か贈らせてほしいとは思うが、櫛は嫌だな」
「え?どうしてですか?」
「まあ。足、痛くないか?」
「…大丈夫です、けど」


また柔らかい笑顔を浮かべてる。

宗茂さんの表情が優しくなる時は、何だろう。なんだかすごく、見られている気がする。人と話す時は目を見なさいって言われたことはあるけど、宗茂さんは真っ直ぐに見すぎじゃないだろうか。恥ずかしい。


「そう、左近が言っていたんだが、美味い茶屋があるそうだ」
「…茶屋…」
「遠慮しなくても。さ、行こうか」
「…いいんですか?」
「折角だしな」


私はお金を持っていないから、宗茂さんにすべて払ってもらうことになる。目を見て話すと同じく、例え友達であってもお金の貸し借りは簡単にするものじゃないとも言われてるし、宗茂さんは恩人だ。その恩人に全額払わせるなんて、夢であれ現実であれ申し訳ない。そう思っても、お金は出てこないんだけどさ。


「宗茂さん、私お腹は空いていないので、お茶だけで」
「遠慮はいらないって言ったんだがな。聞こえなかったか?」
「聞こえてますけど…」
「なら俺と分けるか」
「……断れないじゃないですか」
「そうしたんだ」


私が断る道を探してもあの手この手で塞がれそうだ。奢るのが好き、なのかな。それなら私じゃなくて、仲良さそうだったし清正さんとか。あ、女の人に奢るのが好きとか。それならおねね様、まあ、豊臣秀吉の妻相手となるとあれか。


「それと、なまえ。俺はお前を誘いたかったんだ。それ以外じゃ意味がない」
「…顔に出てました?」
「そう考えていると思っただけかな」
「はあ」


私だから。
これは、糠喜びの場面だろうか。清正さんがいないから判断できない。こうして歩調を合わせてくれているのも私だから。それとも、その「なまえだから」自体が常套句なんだろうか(でも何か、それでもいいかなとか)。


「……なまえ」
「はい?――…わっ!?」


呼ばれたと思ったら急に宗茂さんの腕が伸びてきて、飛び出るんじゃないかと錯覚するくらい心臓が激しく鳴る。こんな往来で何を、尋ねなくても答えは出てる、けど。


「嘘は良くない。足が痛いなら素直にそう言え」
「え、あ、そのっ…ご、ごめん、なさい」
「慣れてないのか。まあ確かに、なまえの履物は変わっていたしな」
「…申し訳ないです」
「謝られるより礼を言われる方が嬉しい」


間近にある宗茂さんの顔。見上げなくてもそこにある。落下してきた私を受け止めてくれた時とは違う、今のこれは、俗に言うお姫様抱っこだ。


「…あ、ありがとうございます、宗茂さん」
「ああ」
「でもあの、確かに足は痛いんですけど。出来れば背負ってもらえる方がまだ、我が儘とは思うんですけど、」
「着物が乱れるだろう」
「あ、ああ。そうですね、はい。…じゃあ、これで」


そりゃ幸せだなとも思うけど、店の人だったり気さくな買い物客だったり、(奇異であれ)声をかけられるのはすっごく恥ずかしいです、宗茂さん。



20110614

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -