07

さて、清正と見詰め合うなまえは困ったとかしまったとか、つまりはあまりよくない事態に直面したような顔をしている。秀吉様を責めはしないが、俺がいればなんとかしてやれたかな。なまえにそこまでしてやる義理があるかと問われたら、ないとしか答えられないんだが。


「虐めたな?」
「誰が。お前じゃないんだ、女子供を虐める趣味なんてない」
「酷いな、俺にもない。なまえ、泣かされたりしてないか?」
「なか…大丈夫、です。お帰りなさい、宗茂様」
「ああ、ただいま」


なまえ、それから俺。順に視線を寄越す清正は未だに渋い表情のままだ。その場凌ぎとは言え、流石に侍女は無理があったか。侍女にしては言葉が甘いし宗茂様と呼ぶ声も安定しない。俺が戻るまで無言も有り得ないし、清正はなまえに対する警戒を強めたことだろう。


「宗茂、そいつはお前の何だ?」
「俺がなまえに掛かり切りなのが寂しいのか?可愛いな」
「…ふざける気分じゃないんだが」
「まあ、何。侍女見習いにでもしようか、今日から」


どうにも俺に弱いらしいなまえはこうして笑ってみせると目を逸らす。それが面白い。つい追いかけて逃げ道を削ってやろうかとか、ああ、これが清正の言う虐めになるのか。それなら確かに、俺は人を虐めるのが好きなんだろう。


「今日から?やっぱりお前の侍女じゃなかったんだな。何でわざわざ、」
「いいや、俺の侍女だ」
「今この瞬間からだろ」
「新人だと言ったな、俺は」
「今なんだ、嘘に変わりない」


清正は、俺がどうしてなまえに肩を貸すのかが気になる。庇う必要のない赤の他人を自分の侍女と言ってまで守った、ことになるんだろう、清正には。確かにその通りだ。しかも本当にそうしようと言うんだから、意味がわからないと。

なまえを赤の他人、得体の知れない女と思う清正。だが、それは俺と清正も同じだ。秀吉様の子飼いである正則や三成のような付き合いはない。清正がどんな子供だったか、俺は知らない。清正だって、俺がどんな子供で何を考えている人間かを的確に当てることは不可能じゃないか。

俺が実は秀吉様の命を狙っている、小田原征伐に参戦したのもその機を得るためだと言えばあっさり信じて殺しにかかりそうな純粋さだな、まったく。


「なまえ、まあ俺のことは宗茂さんでいい」
「…いいんですか?」
「そう呼ばれるのが好きだ。お前には」
「……そ、それなら、はい…」

また逸らす。
笑顔に弱いというわけでもないんだな。

「勝手に話を進めるなよ。秀吉様を害す人間じゃないにせよ、一応報告はすべきだろ。こいつの処遇はそれから、」
「俺の侍女だ。お前の秀吉様は、他所様の下回りにまで口を出すのか?」


例えば秀吉様がなまえを気に入ったとする。天下の秀吉様に手元に置きたいと言われてしまえば、俺ごときではどうにもできない。

なまえが秀吉様とあることを選ぶなら口出しはないが、こうして不安そうな縋るような目で見られて捨てるほど薄情ではないつもりだ。理由にならないかな、これは。


「そう、天下統一を祝して宴を催すそうだ。その時にでも紹介するさ、俺の侍女として」
「お前な…」
「暫くは大坂に留まることになりそうだし、お前の着物でも探すとしよう」
「そこまでご迷惑は、」
「それでは何時までも怪しまれるぞ」


あと理由をあげるとすれば、そうだな。

なまえの目がこの時代にはないような色をしているから見ていたい、というところか。



20110604

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