04

超絶イケメンは立花宗茂という名前らしい。

知らない。聞いたことも、あーいたよねこんな人の感覚もない。だいたい知ってる人が出てくるよね、夢って。しかも、落下で目が覚めてもおかしくないのにまだここにいるし。

まさかこれは。いや、まさか。


「なまえ」


私が考えに耽っていると立花さんが名前を呼ぶ。馴染んでいる名前も立花さんに発音されると照れ臭い。おお、困った表情もかっこいいとはこれいかに。


「…はい」
「そろそろ立てないか?」
「……あ!ご、ごめんなさいっ!!」
「いや」


私を受け止めた手は既に解かれていて、下手したら私が勢いに任せて押し倒したように見える。そんな大胆なことが出来ようか。いやいや、無理だ。


「あの、ありがとうございました。お怪我は?」
「なまえは?」
「えっと。鼻を打ったくらいで、それも特には」
「それはよかった。ああ、手を貸してくれ」
「は、はい」


微笑む立花さんに手を伸ばすと恐ろしいほど様になる動作で取られてしまう。

とても品のある人だ、立花さん。立ち上がるために手を借りたと理解は出来ても、実際そんなに助けになってないから何のために伸ばしたのかよくわからない。見た目に明らか、私の体格で立花さんを引っ張ることなんて無理だ。逆に引っ張られそうになった。


「立花さん」
「宗茂でいい。立花だと厄介だ」

厄介って、何だろう。
私の疑問を読み取ったのか、…宗茂さん、は、綺麗な微笑みを。微笑みの貴公子なのだろうか、彼。

「それで?」
「あ、…宗茂さんは、どちらの?」
「柳川大名だ。取り立てられて日は浅いが」
「柳川大名?」


直ぐに浮かんだのは柳川鍋だけど、絶対に違うと断言できる。柳川。地名だよね。大名ってあの、歴史の授業で聞いた大名かな。


「…その名の通り、柳川の大名だが」


不思議そうな顔。これじゃあまるで私が変な発言をしているみたいだ。あれ、夢じゃなくて何とか村みたいなところに迷い込んだのかな。それとも何とか村に迷い込んだ夢。歴史のレポートではないはず、なんだけど。


「……深刻だな。知能が飛んだか、本当に」
「へ?い、いえ、そんなことは…」
「ん?飛んだのは記憶か?何にしても、只事じゃない」


柳川という地名、大名という聞いたことはあっても馴染みのない単語。どちらを知らなかったことが宗茂さんを刺激したのだろう。観察しなくても、さっきとは様子が違うってわかる。


「…異国の人間、とか。それなら珍妙な着物も説明が…異国人は飛ぶのか?」
「まさか!飛行機とかパラシュートもなしに飛ぶ人間なんていませんよ!」
「ん?何を言ってるんだ、お前」
「はい?」


あれ、言葉が通じない。ご都合主義な夢じゃないと。ちょっと待って、宗茂さんの目が可哀相なものを見る目になってないか。


「しかし、発する言葉がわかるということは、異国人ではないな」


思案する宗茂さんには悪いけど、私から見れば宗茂さんの格好の方が――…いや、この風景では確かに私が浮いてる。でも宗茂さん、明らかにコスプレじゃ。武将祭かな。武将祭の夢って何。…そろそろ夢かも疑わしくなってきた気がする。


「こんなところで何やってんだ、宗茂」


ぶっきらぼうな声。苛立ちを含んだ音に思わず体が反応する。宗茂さんは声の主に視線をやりながら、あやすように私の肩を優しく叩いてくれた。


「お前こそどうした、清正」
「秀吉様がお前を探してる。さっさと戻れ」
「…無視をするわけにはいかないな」


清正?秀吉?
大名、武将みたいな格好、風景。そこに秀吉なんて名前ときたら、豊臣秀吉くらいしか浮かばないんだけど。


「…豊臣秀吉…?」
「ん?秀吉様は知ってるのか」
「…おい、誰隠してる」


宗茂さんを呼んだものより低い、不快を露わにした声。これは、私に向けられているに違いない。


「…困ったな」


少し面倒になるかもしれない。

宗茂さんの囁きに、あっという間に恐怖は膨れ上がる。



20110601

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